創設期企画小説 | ナノ


事の次第をマダラに説明してから約一時間、三人はツバキをあやす事に全力を注でいた。大男がしゃがみ込んで幼子の機嫌を窺う様は何とも奇妙である。泣き喚いていたツバキも次第に疲れてきたのかグズグズ泣きに変わり、今ではスンスンと鼻を啜る程度だ。執務机を盾に顔を覗かせているのを見るにだいぶ慣れてきたのだと思う。

「まったく、ようやく落ち着いて来たか。おい、沢山泣いて喉が渇いただろう。茶でも飲むか」
「・・・」
「扉間、笑顔、笑顔だ。マダラも。お前達は顔が怖いのだからそんな仏頂面ではせっかく慣れてきたというのにまた怖がってしまう」

柱間に諭される二人が顔を歪める。笑顔?そんなもの出来るわけがない。というより逆に怖がらせてしまいそうだ。
渋い顔の扉間とマダラがツバキを盗み見た。身を強張らせて泣きそうな表情で此方を睨み付けるツバキにはとてもじゃないが慣れていない笑顔など見せられない。
しかしそんな緊張した空気の中、不意に柱間が思いついたように手を打った。

「そういえばまだ自己紹介をしていなかったな!」
「こんな状況で何を言っている」
「いやいや、ツバキのような育ちの良い奴は名前やら出身やらを気にするもんだ。まぁまだ小さいからそこまで気にすることはないかもしれないが・・・それでも親から知らない人と話したらダメだとは教えられているだろう」

「と、いうことで」とツバキに向き直った柱間が形式ばった口調と仕草でツバキに挨拶する。それに続いて扉間とマダラも儀礼的に名乗ればツバキが少し肩の力を抜いた気がした。ぽつりと「里長」と呟く辺りその役職に安堵を覚えたらしい。おずおずと机から出てきて小さな声で名前だけ名乗ってくれる。

「えーと、ツバキ。色々と不安だろうが取り敢えず俺達がお前に害を加えることはない。安心してくれていい」
「・・・」
「大丈夫だ。この里は平和だしお前と俺達が対立する理由はないだろう」
「・・・ん」

ようやく自分の身の安全が保障されると確信出来たのか、ほっと口元を緩ませるツバキ。
それを見て三人も安堵したように胸を撫で下ろした。ついでに柱間が先程少し興味を示した木遁を使ってみれば、ツバキの表情が明るくなる。

「はしま凄い!」
「・・・はしま?って、何ぞ」

はしま、はしま──あぁ、はしらま、か。柱間と言いたいのか。三人が顔を合わせてツバキに目を戻す。
見たところ四歳か五歳か辺り。柱間、は言い辛いかもしれない。そして柱間が言い辛いという事は──

「ツバキ、こっちの白い髪の人は?」
「とびま!」

自信満々に答えてくれたが違う。一文字少ない。不服そうに軽く顔を顰める扉間に柱間は「子どもなんだから」と苦笑いを零す。が、諦めきれない扉間がツバキを呼んだ。

「扉間、だ」
「とびま?」
「違う。と、び、ら、ま」
「と、び・・・ま」
「言いにくいからといって省くな」

真剣な表情でツバキと向かい合う扉間。柱間とマダラはその様子を珍しげに見ている。あの仏頂面(マダラは人のことを言えないが)が子供相手に苦戦しているのは見ていて面白い。

「と」「とー」
「び」「びー」
「ら」「らー」
「ま」「まー」
「よし。扉間、だ」
「とびま!」

駄目か。
失敗に終わった扉間が片手で顔を覆う。柱間は弟の肩に手を置いて心の中で「元気出せ」と声を掛けた。そして最後にマダラを指さすとツバキに「こっちは」と問う。柱間と扉間の後で少し忘れていたのか軽く考えて、すぐに思い出したといった表情を浮かべた。

「まーら!」

うん、予想はしてた。
マダラが「俺は動物か」と呟くのを拾った柱間が「マダラでも魚じゃないか」と突っ込む。しかしこれはこれで可愛いと思ったのか頬が緩んでいるマダラの耳には届かなかったようだ。
それどころか柱間がこっそり食べようと棚に隠しておいた煎餅をいつの間にか手にしていて、それをツバキに差し出してこっちに来いと誘っていた。

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