創設期企画小説 | ナノ


襖や家具を取っ払った広い部屋で、祝言は厳かに行われた。忍というからもっと荒くれているかとも思ったがどうやらそうでもないらしい。
静かに進む式にツバキはホッと胸を撫で下ろす。
そして祝言が終わった後は宴という事で、ここからは騒がしくなった。
普段は食べることのできない豪華な食事に飲めや歌えやの大騒ぎ。ツバキは下手に絡まれないよう自分の席から動くことなくちょこちょこと目の前の食事を摘んでいた。


宴は次の日の夕方まで続いてようやくお開きとなった。元々のツバキ付きの女中と共に宛がわれた部屋へ行けば、なるほど穂の国の城と雰囲気が似ている。その配慮は大変ありがたい。
──が、やはり嫌なものは嫌だ。

「何故妾が忍と・・・身分違いも甚だしいとは思わぬのか・・・」
「ツバキ様、私共がついております。慣れるまでどうか辛抱くださいませ」

湯浴みを済ませて部屋に戻るとツバキはグズグズ泣き言を言いだした。父と母は何をしているだろうか。兄も根を詰め過ぎていなければいいが。
家族を思い出して涙を浮かべていると、不意に襖の向こうから「入るぞ」と声が掛かってそちらを振り向いた。

「マダラ、様」

部屋に入ってきたマダラにツバキの体が強張る。
そうだ、夫婦になったのだから閨事も避けては通れない。
邪魔をしてはならないと出て行こうとする女中達を引き留めるも叶わず、部屋にはツバキとマダラの二人だけになった。
布団に腰を下ろしている自分の下にマダラが足を踏み出したのを見てツバキは怯えながらも眉を吊り上げる。

「く、来るでない!それ以上寄るな!」

布団を握りしめて威嚇するツバキにマダラは足を止めた。
来た時からこの婚姻に納得していない様子ではあったがやはり夜も拒まれるか。夫婦になったという事もあって自分はその気で来たというのに。

「落ち着け。来るなも何もここはお前の寝室であると同時に俺の寝室でもある」
「ならば妾が出て行く。別の部屋に布団を用意させよ」
「夫婦になって早々にそんなこと出来るか」

一向に警戒を解かないツバキに小さくため息を吐く。
無理に組み敷いてでもやってしまうか、それとも今回は見送るか。
しばらく迷うように目を彷徨わせたマダラは最後にこちらを睨み付けるツバキを見て溜め息を付いた。

「・・・宴で飲み過ぎた」
「は?」
「気分が優れないからもう寝る。お前も長旅で疲れているだろう。慣れない環境だがしっかり休め」
「こ、こら・・・!」

ツバキの抗議に構わず言うことを言って布団に寝ころんだマダラ。そのまま寝入ってしまったのを見てツバキは逆に困ったように固まる。
今日はもう貞操の危機はないと考えても良いのだろうか。
首を傾げたり辺りを見渡してみたり、しばらく考えていたがマダラが起きる様子は全くなく拍子抜けといった表情で肩の力を抜いた。

「・・・まぁただ寝るだけなら構わぬか」

ホッとしたところで疲れが襲ってきたのか欠伸を零した。布団は一つだがマダラが寄って寝てくれたためツバキも灯りを消して空いている所に身を横たえる。布団を被って、マダラにも少し迷ったが掛けて、そして目を閉じれば疲れのお蔭か割とすぐに夢の中に入っていった。

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