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徒花の実はいらぬ


くのいちの高学年が全員、一つの部屋に集められた。三学年が一緒の部屋にいることなどはめったになく、皆例に洩れず不思議がっていた。
けれど緑子は、なんとなく予感が出来ていた。前にシナ先生にあらましを説明しに行った時、先生は“説得後のことは先生方が考える”とおっしゃったのだ。シナ先生は言われたことはすべて守る人だ。説得から三週間ほどたち、そろそろ結論が出てもおかしくは無かった。

くのたまが集まり、がやがやと騒がしい教室の扉は、気配もなくガラリと開いた。皆が驚いて話を止める。そこにいたのはもちろんシナ先生で、気配を感じさせないその実力に舌を巻いた。
けれど教室内に入ってきたのはシナ先生だけではなかった。その後に続いて学園長が、他学年の先生が、忍たまの先生が、数人入ってきたのだ。
くのたまたちも何かを察したのだろう、教室内の空気は打って変わってぴんと張り詰めた。驚くほど静かな教室内に、先生方の足音だけが響き渡る。

「今から、特別実習を行う。その間他の授業はすべてキャンセルしてよろしい。心して聞くように」

学園長の言葉に、ざわりと、音はしなくても皆の心の中に驚きが生まれた気配がした。今までになかったことだ。他の授業を潰してまで、実習を行うことなど。
シナ先生が言葉を引き継いだ。

「実習の内容を説明するわ。最終目的は未来から来たと自称する少女、一谷ジュネの忍術学園からの追放よ。忍たまからのガードが固く、この目標に辿りつくには困難を極めるはず。そして重要なのはここよ。忍たまに、ジュネの追放を認めさせること。これができなければ追放しても意味がない。分かったかしら?」

はい、とくのたまの全員が期待に胸を膨らませながら頷いたのが分かった。先生がたは分かっていらっしゃったのだ、というくのたま達の喜びが教室に渦巻いていた。



「浮かれるんじゃありません!」

シナ先生の鋭い声が、教室に響いた。くのたまの気持ちが一斉に黙り込む。

「これは実習です。私的な感情は慎みなさい。任務遂行のためだけに動きなさい。三学年共同の実習で、1人でもミスを犯せば全員に迷惑がかかることを肝に銘じなさい!」

良く考えられている、と緑子は思った。
このままもう少しでも問題を後回しにしてしまっていては、怒りを抑えきれなくなったくのたまたちが暴走する可能性があった。かといって先生方が内々に処理してしまっては、忍たま、くのたまのそれぞれの怒りの矛先がどこへ向かうかは分からない。
すべてを“授業”という枠にはめ込み、くのたまに行わせることで、ジュネさんがいなくなったあとの忍術学園を、彼女が来る前に戻そうとしているのだ。
「この実習は三学年合同であり、規模が大きいものです。そのため、まとめ役として、リーダーを選出するわ。六年生は卒業も近く、この実習以外にもやることが多いため五年生から選びます。
―――――瓜貝緑子」
「はい」

名前を呼ばれて立ちあがった。予想はしていた。自惚れではなく、この実習の核を担っているのは私だろう。

「貴方がリーダーよ。この実習を必ず成功させなさい」
「はい」

シナ先生はそれだけ言うと、後は任せるわ、と他の先生達を引き連れて教室から出ていった。
私は心の中で大きく深呼吸をし、視線だけで皆の意気を窺う。全員の瞳が、やる気に満ちていた。うまくやれそうだという思いの他に、これほどまでなのかという気持ちも浮かんだ。もう、すべてのくのたまはジュネさんの敵なのだ。

「リーダーを仰せつかった、瓜貝緑子よ。今から早速作戦会議に入るわ。まずは五年生の、そこの三人。すぐに外に出て、この教室内に何者も近づかないか見張りなさい。例えシナ先生であっても、本人だと分かるまでは通さないこと」
「「「了解」」」

この作戦が外部に洩れないための見張りをつけたあと、緑子はそれぞれの学年からリーダーを選出した。絶対に成功させなくてはならない。

「絶対に忍たまに、くのたまであっても下級生には悟られるな。この作戦は極秘であり、私たちの一挙一動ですべてが決まると思え」

実習は始まった。私たちは任務を遂行する。




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