阿散井は、あのときのことは鮮明に覚えている。藍染は四楓院夜一と砕蜂隊長に捕まっていた。市丸は松本さんに、東仙は檜佐木さんに、それぞれ捕まっていた。ここまでだと、誰もが思ったのだ。
 彼ら三人、謀反者は捕えられた。はずだった。
 けれどそれは一つだって当たっていなくて、虚の放ったネガシオンに三人が包まれたとき、俺達を襲ったのは一種の絶望感、虚無感だった。このまま彼らを逃がしてしまうことに、そしてそのことによってこれからの未来がどれほど暗くなるのかということに。

 彼らの身体が少しずつ上がり始めた頃、後ろからの爆音が響いた。それは俺にとっての後ろからで、もちろん前だった人もいるだろうが、とにかく後ろから爆発音が聞こえたのだ、そして俺は振り返った。
 一箇所、二箇所三箇所、四箇所。四つの場所から火の手が上がり、朦々と煙が上がっていた。それが自然災害や不注意で起きたことなどではなく、誰かに爆発させられたのだということは一目瞭然だった。
 上がっている場所は今いる双極の丘から程近いところに三箇所。そして少し遠く離れたところで一箇所だった。


「三人の自室か…っ?」 誰かの声が耳を掠める。なるほどここから近いところにある三箇所は、それぞれ三番隊五番隊九番隊の寄宿舎である地域の、席官クラスの人間が生活している場所から上がっているようだった。証拠隠滅のためにか、燃やしたに違いない。
 それではもう一つはなんなのか。目を凝らして場所を見つめる。十番隊、だろうか。確証はもてなかったが、十番隊の寄宿舎から上がっているように見えた。それもずっと後ろ、平隊員が寮生活のように暮らしているところ、から。
 だとしたらいったい誰の部屋なのか。それにそうだ、一体彼らの部屋を爆破したのは誰なのか。
 もしや、いや絶対、もう一人誰か敵がいるのだ。そう思って藍染のほうを振り返ったのは間違いではなかったらしい。他の人間も、何かに気付いたような表情をして藍染のほうを見上げた。彼に与えてもらうことでしか、答えを知りえない自分たちが歯がゆくて仕方がない。




「ああ、一子。お疲れ様」

 藍染はそんな俺たちの視線を無視して、視線を一つの方向に向け、声をかけた。そこにいたのは、一人の女。女というには少し若すぎるかもしれなかった。けれど少女とは言えない年齢の、一人の女がそこに立っていた。
 いつのまにそこにいた?きっと誰もが驚いたことだ。見覚えがないことから、彼女は席官クラスの人間ではないようだった。けれど彼女がここにくるまで、誰一人として彼女の霊圧を感知できていない。
 彼女は、なんだ?知らないことへの恐怖が湧き出る。そのとき砕蜂隊長が俺の目の端から消えた。ネガシオンに包まれていない彼女は、俺達が捕まえる絶好のチャンスなのだ。
 今度こそ捕えられる、けれどそう思ったものはまたもや翻された。砕蜂隊長の動きを俺は目で追えてなどいない。けれど彼女の立っていたところに砕蜂隊長が立っているのを俺が見られるようになったとき、そこにいたのはひとりだけだった。