黒いアイラインをひいて、赤いルージュをなぞって、シンプルな白色のワンピースを着て、久しぶりに自分を飾り立てる。そんな私の出で立ちに、k・kは楽しそうな声をかけた。

「花っち、着飾っちゃってどうしたの」
「あ、k・k。実はこれから、デートなの」
「いいわね! どんな人と?」
「さあ。会ったことないんだよね、ネットで知り合ったの」

私の言葉にk・kはあまり良い顔をしなかった。けれど私はそれを適当に流してさっさと待ち合わせ場所に向かう。出会い系サイトに登録してみたら、何人もの男性からメッセージが来た。そんな場所にろくな男がいないのは知っていたけれど、あの護衛任務の男や、ザップよりも悪い男なんてこの世にそうそういない気もして、一人選んで会う約束を取り付けてみたのだ。

ああいうサイトだからイメージと全然違う男が来るんだろうなあと思っていたのに、やってきたのは意外にもプロフィールから年齢や見た目が違わない男性だった。アジア系であることも、黒髪であることも本当。髪の色が金髪でも銀髪でもないし、肌の色が褐色でも白色でも無い。

待ち合わせ場所から移動してご飯を食べて、たわいも無い話をした。それからその男性は、それがもちろん当たり前とでも言わんばかりに私をホテルに誘った。
ああやっぱり出会い系ってそういうところなんだなあとか、この人普通そうに見えるのになあとか、うっすらそんなことを考えながら首を縦にふる。

私に薬を盛らなかったし、私とホテルに行きたいと言葉を使って誘ってくれただけで、ちょっとだけ嬉しかった。私がこんなことをしてるってチェインが聞いたら、卒倒してしまうかもしれない。

男が選んだホテルはご飯を食べた場所から歩いてすぐの場所で、彼が全て込みでご飯の場所まで選んでいたのだなあと考えながら、私はそのアジア系の男についていく。
そうして安っぽい外観のホテルについて、その建物の中に一歩足を踏み出そうとした時に、私は腕を掴まれた。

「おい!」

びっくりして振り返ると、そこにザップがいた。アジア系の男もびっくりしたようにこちらを見ている。

「花、お前何してんだ!」
「何って、ホテルに」
「そいつ初めて会ったやつだろ、馬鹿かよ!」
「ザップなんなの、私たち別れたでしょう?」

どうしてザップはここにいたのかと疑問に思ったけれど、この場所、つまりはホテル街は彼の居住区のようなものかと思ってひとりで納得した。アジア系の男は何だか面倒臭そうなことに巻き込まれたらしいと、嫌そうな顔をしていた。これはいけないと、ザップの腕を振り払おうとする。しかし彼はそれを許さず、それどころか私を俵のように持ち上げると、そのままそこから遠ざかるように走り出してしまった。

呆気にとられる男に、ごめんなさいと叫んだ声は、届いただろうか。