旅行は結構楽しかった。何にも考えないで良かったし、戦わなくてよかったし、気分転換になったと思う。

緊急以外NGの設定を解除してみたら色んな人から着信とかメールとか入っていたけど、やっぱり一番に目に付いたのがザップで嫌になる。彼は私が早朝に送ったメールに対して、昼過ぎから沢山の着信を残していた。これって結局多分、女の人のところで昼まで寝ていたんだろうなって思って、気持ちを追い出した。別れたのだから、彼がどこで何をしようと構わないのだ。


一週間ぶりの出社で、笑顔はきちんと作れた。

「おはようございまーす」
「あ、花!久しぶり、旅行に行ってたんだって?」
「そうなの。楽しかったよ」

チェインがにこにこ笑いながら駆け寄ってくれて安心した。スティーブンさんもクラウスさんもいたけど、普段通りおかえりって言ってくれて嬉しかった。

「それより花、あんたザップどうにかしなさいよ!」

言われた言葉に、一瞬どきりとする。

「この頃機嫌悪いし、いつも以上にうざいのよ、まあ彼女のあんたがいなかったせいなのかもしれないけど……」
「チェイン、違うよ」
「何が違うの?」
「別れたの」
「は?」
「別れたから、私とザップ」

その声は、意外に大きく室内に響いた。部屋にいる人みんなに聞こえたまろう。居心地が悪かったけれどもいずれ知られてしまうことなら早いほうがいい。
えへへ、と笑ってみせると、チェインはそれこそびっくり仰天という顔をしていた。

「どうしたの?チェイン、いつだって別れた方がいいって言ってたのに」
「まあ、それは、そうだけど。……ザップになんか、ひどいことされたの?」
「ううん。ザップは変わらずザップだったよ。変わったのは私」

たくさん相談に乗ってもらったのに、こうなっちゃってごめんね。謝ると、彼女は謝ることじゃないと首を横に振った。


初めては大好きな人と、なんて幻想を抱いていたわけじゃない。でもあの時私は確かにザップと付き合っていて、だからきっと初めてはザップだろうな、とは思っていた。
だからそうじゃなかったことに打ちのめされたのだけれど、それが別れの決定打だったわけではなくて。
付き合っている人がいるのに、初めて会った卑怯な男と肌を重ねてしまったことがとてつもなくショックで、辛かった。
だって私は、ザップと付き合っていたのに。

けれどそれと同時に、ザップはそうじゃないんだってことに気がついてしまった。私という彼女がいても、色んな女の人と肌を重ねるなんて平気だし、そもそもザップの感覚で言えば、抱いてもいない私と付き合っているなんて言う方がおかしい。私がライブラに所属しているから振るに振れなかったとかそういうことじゃないのかって思ったし、何よりも彼にとっては私ってそれだけの存在なんだなって感じで、それが一番辛かった。

ザップが女の子が大好きなクズだってことは始めから知っていたのだから、結局私が悪くて、みんなの言うことは正しかったのだろう。