「お腹がへった」

ぽつりと私が呟いた言葉はそのまま誰にも聞かれることなく消えた。あたりまえだ、私の周りには誰もいない。あえていうなら海鳥が近くを飛んでるけど。でもここは海の上船の上見張り台。人が二人で十分のスペースだし第一見張りは一人でやるものだし。知ってるよ私だってそれくらい。だからでも私はもう一度宣言しよう、空腹である。

見張りの時間が終わるまで後一時間いったいなにしてればいいのだか。いや見張りをしなくちゃいけないんだけどさ。だってほら私見張りってどうすればいいのか良くわかんない。さっき鳥がいっぱいいるって報告したら怒られたし。船とか見つけても敵船かどうかわかんないし、具体的に何を報告しろっての。というわけで私は手持ち無沙汰なのだ。暫く鳥しかみてないよ。あ、焼き鳥食べたい。



私がこの船に乗ってから三日、きっと慣れるのはずっとずっと先のことだ。だけどその先はまだ見えない。
この船の船長は麦わらで笑顔でいい人だ、この船の剣士は腹巻きで冷静でいい人だ、この船の航海士は蜜柑で綺麗でいい人だ、この船の射撃手は長鼻で嘘つきでいい人だ、この船のコックは煙草で女好きでいい人だ、この船の医者はトナカイで照れ屋でいい人だ、この船の考古学者は黒髪で大人っぽくていい人だ。だから私はここにいたくない。

たった三日、されど三日。船長は私のこと気に入ってくれて、なし崩しに乗った船。ちょうどいろんな事に飽きていたし、軽い気持ちで誘いに乗った三日前の自分を殴り飛ばしたい。よりによってこの船。こんな太陽みたいな人たちしかいない船じゃどこにでもある三等星の私はきっとその光で誰にも見えない。



たらたらとそんなことを考えていたら、下から飯だぞ、という声が聞こえた。見張りの私は勿論降りていったりしない。ちくしょ、腹減った。


そのまま望遠鏡を片手に(この船のほとんどの船員は使わない、船に乗る者として言語道断だ)海をぐるりと見回して、心の中で異常なし、と呟いた。船も島も見当たらない。青い海に青い空。潮風が心地よい。そしてお腹がすいた。


ふわり、といい香りが漂ってきた。これは新手の拷問か。鼻をくすぐる素敵な匂い。なんでこの高さまで香るんだ、おかしいだろ、どんだけすごい料理なの。しかも食べる音がうるさいんですけど。船長食べ過ぎ、なんで人間が食事をするときにもぎゅもぎゅとかバキボキとか音するの。


そんなことをぐるぐると頭のなかで考えているうちに、やっと交代の時間が来た。ぎしぎしと上ってくる音だ。来たのはどうやら緑頭。私は緑頭がのぼり終わる前に見張り台から飛び降りた。だん、と両足を甲板にたたきつけたときに上から声が降ってきたが、そんなのは無視だ。

心の中で発声練習をしてから、皆が食事をしている部屋のドアを開けた。皆が当たり前のように私に笑いかける。ああ反吐がでてしまいそう。
それでも空腹に堪えかねた私は微笑んで、食事にありつくのだ。



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これで連載を考えていたのですが、なんか似たようなのしてると思って止めました。