長編、企画 | ナノ

プロローグ



『いってきまーす!』

今日も玄関まで見送りに出てきてくれた、おじいちゃんとおばあちゃんに挨拶して家を出た。
「いってらっしゃい」とおじいちゃんはニカッと笑いながら、そしておばあちゃんは少し心配そうに眉をさげながら、手を振ってくれる。

同じ宮城県内のそう遠くはないところに実家があるにも関わらず、とある理由から祖父母の家にお世話になっている。
そのことを申し訳ないと思いながらも、とても優しく自分を受け入れ、愛してくれることが嬉しくて、跳子は思わず頬がゆるんだ。

そんな家から烏野高校に通うようになって早2週間−、ようやく高校生活にも慣れ始めた。
少々人見知りの気がある(自称)ため初めは不安だったが、幸い友人にも恵まれ楽しい毎日を過ごしている。

学校までは徒歩で20分くらいだ。
自転車通学もできるが、とりあえずは歩きで通ってみている。
細い住宅街の道を抜け、大きめの通りに出てすぐのところに横断歩道があるが、残念ながら今日は赤信号だった。
ここが青だとちょっとしたラッキー気分になれるのだ。
仕方なく信号で足をとめた跳子は、今日の予定を思い浮かべる。

(英語の宿題はやってきたし、あたりそうな数学も大丈夫なハズ!放課後は…ちえもゆかちゃんも今日は部活の日かー。)

跳子は少し下を向いて自分のつま先を意味もなく見つめた。

(…部活、どうしようかなー…。)

もちろん帰宅部という選択肢でもいいのだが、中学時代には部活漬けの毎日だった跳子は、少しの物足りなさを感じていた。

それならたくさんある部活動の中から、多少なりとも興味がある部をのぞいてみればいい。
そう思いつつもあと一歩が踏み出せないのだ。

−まだ踏ん切りがついていないのか−

自嘲するようにため息が漏れた時、信号機が歩行者用の音楽を奏ではじめた。
慌てて顔をあげ、ため息を取り戻すように深呼吸する。

シグナル・ブルー。

(選択肢がありすぎても決めきれないものなのだ、人間だもの!)

某有名詩人の一節を勝手な解釈で引用しながら、跳子は足を踏み出した。


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念のため、設定読んでない方への捕捉です。

主人公の友人(固定名)
ちえ→佐藤 千恵
ゆか→高梨 由佳


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