長編、企画 | ナノ

小悪魔の所業(side 澤村)



『いつもスミマセン…。』
「だからそんなかしこまるな。こっちが一人で帰す方が不安なんだ。」

なんだかんだで部活が終わった後に、鈴木を家まで送るのは俺の役目となった。
スガが「職権乱用じゃないかー?」なんてニヤニヤしてたが、とりあえずスルーだ。
まぁもし他のヤツが送るといってもあまりいい気分もしないから、ハッキリ否定もできないのが痛いところだ。

まだ知り合って数日だが、部活中の鈴木の働きは目にみはるものがあった。
小さい身体でちょこちょことせわしなく動き回り、その笑顔はみんなの士気を否応なく高めてくれる。
何よりもバレーボールに対する真摯な気持ちも伝わってきて、こちらも嬉しくなる。
一緒にいる清水の笑顔も増え、そんな二人に2年のバカ共もご満悦だ。
しかしほんの時たま、みんなから見えないところで、何かを押し殺してるような苦しそうな顔をしているのを俺は知っていた。


二人で歩きながら他愛もない話をする。
20分弱の短い時間だが、すでに俺の中で大切な時間になっていた。
彼女の日常を少しでも知れることがとても嬉しかった。

『明日の帰りは夕方で明るいですし、月島くんと山口くんと、従姉のケーキ屋さんに行くので大丈夫です。』
「…そうか。いいなケーキ屋。」
『今度オープンしたら、みんなで行きましょう!』

そう楽しそうに話す彼女を横目でチラリと見る。
背の小さい彼女の顔は、俺よりもだいぶ下にある。

(まぁ性格もそうだけど、めちゃくちゃ可愛いよなぁ…。)

もちろんクラスでもみんなから人気があるようだ。
授業中に窓の外を見ていたら、鈴木が体育の授業でサッカーをやっていた。
ボールをパスされてわたわたする姿に、思わずクスリと笑った。
その後、なんとかゴールを決めた彼女に女友達が駆け寄り、頭をぐしゃぐしゃにされて可愛がられていた。
そして、近くにいた男子とハイタッチをしたり、呆れた顔の月島に髪を直されている姿に、少しチクリと胸が痛んだ。
その痛みの正体が何かわからないほど、俺は鈍いわけじゃない。

(そりゃ気にもなるよな。)

自覚は十分にある。これからその想いが大きくなる予感もしてる。
それでもバレーボールへ全力を注ごうと決めた自分が、そんな想いを抱くことになるとは、と俺は人知れず戸惑っているんだ。


『…ってちえが言うんですよ〜。』
「ははっ。面白いな、その子。」
『そしたらゆかちゃんが、"カベドン"?とかいうのが最高に男の子がかっこいい瞬間だって力説しはじめて…。』

(カベドン?あぁ、あれか。壁ドン、ね。)

思わず苦笑いが漏れた。女子高生の会話はたまに理解ができない。

『でも私、カベドン?がどんなのかよくわからなくてですね。』
「んん?」

なんだか恥ずい会話だな、と落ち着かなくなった俺は、それを誤魔化すように持っていたペットボトルを口にした。

『どういうのか見たいって言ったらゆかちゃんが、"澤村先輩が得意そうだからやってもらえ"って…。』
「ッブーーー!!」

思わず飲み物を噴出した。
は?得意ってなんだ?!したことないぞそんなこと!
隣で「大丈夫ですかっ?」って焦ってる鈴木に何か言いたいがとりあえず落ち着け。

「ゲホッ!お、お前なぁ…!」
『じゃあ知ってるんですね!"カベドン"!』
「!知らんっ!俺は全然知らないぞっ!!」
『嘘です!私、すっごい知りたいんです。お願い、教えてください。澤村先輩…!!』

そういって鈴木は、目を潤ませて上目使いで俺を見てきた。
おい、この子とんでもないぞ!?
破壊力とか卑怯とかそんなレベルじゃないぞ、これ!

「そ、そんなこと…。」
『そういえばゆかちゃんが、"月島くんも得意そう"とか…。』
「!!」

ちょっと待て、この子月島に頼むつもりじゃないだろうな…!

「そ、そのうち俺がやってやるから!」
『!ありがとうございます!』

しまった。とんでもないことを口にしてしまった。
そんな経験値の高そうな恥ずかしいことできるわけがないし、そもそも一体どんなシチュエーションだ、それ!

俺は赤くなった顔を隠すように、その場で頭を抱えてしゃがみこんでしまった。
それを見ていた鈴木が、どうやら無理なことを頼んだようだと気付いたみたいで、おろおろし始めた。
そうだ、そのまま諦めてくれれば−

『あ、あの。そんなに無理なら、ゆかちゃん曰く、ユカドン?とかいうのも捨てがたいみたいなのでそっちでも…。』
「〜〜〜っいい加減にしなさーい!!」


その後、赤くなった澤村によるお説教は、跳子が家に着くまでこんこんと続きましたとさ。


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(オマケ)

『なんかよくわからないけど、昨日ゆかちゃんのせいで澤村先輩に怒られたよー!』
「ご、ごめんね…。」

(この子、本当にお願いしたのね…。)
(澤村先輩、やばかったろうな…。ホントごめんなさい…。)


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