長編、企画 | ナノ

居場所をくれた人



「…少し落ち着いたか?」
『ハイ、すいません…。』

突然泣き始めた私を見た澤村先輩は、慌てながらも真新しいタオルと飲み物をくれ、あまり目立たないように目の前に立ってくれていた。

自分でも驚いたせいかすぐに涙は止まったが、恐らくなんて迷惑で変な女だと思われてしまったであろう。
言い訳、というわけではないがうまく事情を話さなくては、と思うと別の意味で緊張してきていた。

『あの、私、その…、』
「無理に何か話そうとしなくても大丈夫だぞ。」
『え?』
「今はまだ聞いてほしいって感じじゃなさそうだしな。」

無理やり言葉にしようとしてた音が喉元で止まった。
なんでわかってくれたんだろう?
驚いて顔をあげると、目の前に立っていた澤村先輩は顔だけ振り返って温かく私を見てくれていた。
その優しい目に、なぜか胸が詰まってもう一度涙が溢れそうになった。

「バレーボールが好きなんだな。」
『…は、い。』
「好きなことを我慢するのは辛かっただろ?」
『……。』
「うちにもいるんだ。大好きなバレーへの気持ちを無理に抑え込んでるヤツが。」

声に出すとまた泣きそうで、頷くことしかできない私に、澤村先輩はもう一度前を向いてつぶやいた。

ーでも離れてみると、より気持ちが溢れるんだろうな

コートから澤村先輩を呼ぶ声がした。

落ち着くように、もらった飲み物をコクリと飲んだ。
少し泣いて乾いた身体に、優しく水分が染み込んでいくようだった。
もう大丈夫だ。
立ち上がって、澤村先輩にペコリと頭を下げる。

『すいません。ありがとうございました!』
「元気になったみたいでよかった。」
『はい。澤村先輩のおかげです。』

なぁ、と少し間をあけて澤村先輩は続けた。

「よかったら一緒にバレー部、やらないか?」
『…っ、ハイ!』

誘ってくれたことが嬉しくて、私は満面の笑顔で頷いた。


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