長編、企画 | ナノ

彼女の横顔(side 月島)



教室を出て歩きはじめると、後ろから再びガラリと扉が開く音がした。
何の気なしに顔だけ振り向いてみると、つい先ほど前を通り過ぎたはずの鈴木が慌てた様子で飛び出してきたところだった。

後ろ手に扉を閉めてふぅと息をつく姿に"逃げてきたのか−"と納得していると、向こうもこちらに気づいたようで、少し気まずそうに笑いながら僕の名前を口にしてパタパタと走り寄ってきた。
そしてそのまま自然と隣に来た鈴木と二人で歩き出す。
どうやら彼女は、昇降口までの道のりを一緒に行くつもりらしい。

『月島くん、さっきはごめんね。』
「別に。君が悪いわけじゃないでしょ。」
『でも私も一緒に話してたから…。』
「毎日よくやるよね。ハッキリと断わらない方も悪いと思うけど。」
『うっ…!そ、そうだよね…。』
「まぁ最初の頃にハッキリ断ったのも見たけどね。」
『?!つ、月島くんのいじわる!』

入学して間もない頃、隣の席での出来事はそう記憶に遠くなかった。
確か断り文句は、自分にはできそうにないから、だったか。

しかし翌日彼女は面食らうことになる。
山田が全くめげなかったのだ。
人数が足りずに困っている、だの見に来てくれるだけでいい、だの。
昨日は連れてこないと先輩に怒られてしまう、とあからさまに同情を引く作戦に出ていた。

サッカー部には1年生だけでもすでに3人のマネージャーがいるはずだ。
人数が絶対的に足りないとは思えない。
それでも彼女にだけこんなに勧誘し続けるのには、好意もしくは下心があるに決まっている。
それに気づかずに申し訳なさそうにする鈴木は、間違いなく鈍感な部類に属するはずだ。

見に来てくれるだけでいい、なんて言ってはいたが、押しに弱そうな彼女のことだから見に来てさえくれればなんとかなると思っているのだろう。

しかし鈴木は確かに押しには弱そうだが芯はシッカリしているようで、今日まで首を縦に振ることはなかった。
これには今度は山田が面食らう番だった。


『…中途半端な気持ちで、やりたくないんだ。』

昇降口が見え始めた時、彼女がボソリと口にした。

−たかが部活だろう−

そう言いかけたが、笑っているようにも泣いてるようにも見える彼女の横顔に、僕は言葉が喉に詰まって出なくなった。
かわりに出てきた言葉に、鈴木が驚いた顔をして見上げてきたが、一番驚いているのは何よりも僕自身だ。


「うちの部活、見に来てよ。」


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澤村先輩が出てこない…!



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