長編、企画 | ナノ

1年4組の日常(side 月島)


帰りのHRが終わり、途端に騒がしくなる教室。
そのあまりのうるささに無意識的に眉間にシワが寄る。
それを直そうともしないまま、部室までの短い間でもヘッドフォンをつけていこうと決めた。

今日日直の山口は、先程担任について教室を出ていった。
泣きそうになりながら「ごめんツッキー!」と謝っていたが、謝罪の意味がわからない。
恐らく、一緒に部活へ行けないことに対する謝罪なんだと思われるが。別にガキじゃないんだから一人で行くことに何ら問題はない。

支度を終えヘッドフォンに手をかけたところで、隣の席の鈴木が、友人二人と新しいケーキ屋の話をしているのが聞こえた。
思わず手がピクリと止まる。
僕の記憶では、近辺で最近できたケーキ屋に覚えはない。

(どこだ…?)

場所や店名を聞き漏らさないよう耳をそばだてていたが、それは大きな声によって中断された。

「鈴木ー!」

またかと呟く佐藤に、僕は思わずため息で同意する。
サッカー部所属の山田による鈴木への勧誘は、ほぼ毎日の恒例行事だ。
特に興味もないが、隣の席だけに嫌でも聞こえてくる。

(これはケーキ屋の話の続きはないな。)

気にはなるが、わざわざ聞くような雰囲気でもない。
そうなれば今ここにいる意味もなくなった僕は、部活に向かうために立ちあがった。
が、真横でギャーギャー騒ぐ山田が邪魔で通れない。

チッと一つ舌打ちをして邪魔だと告げると、特に悪くないはずの鈴木が、慌てて山田を引っ張りながら謝ってきた。
鈴木に腕を引かれた山田が少し嬉しそうなことに一瞬イラッとしたが、何も言わずに通り過ぎる。

(…マネージャー、ね。)

通り過ぎる瞬間にチラリと見た鈴木の姿に、それも悪くないななんて思ったのは何故だったんだろうか。

なんとなくチリチリする心を持て余して、僕はもう一度小さく舌打ちをした。



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