長編、企画 | ナノ

三つ巴の闘い


着替えが終わり、部員を全員追い出し終わったら鍵をかける。
最近はすっかりスガと旭にまかせっぱなしだったから、夕方に終わる休日練習くらいは自分でやることにした。
少し鈴木を待たせることになってしまうのは申し訳ないが、笑って許してくれるのでついつい甘えてしまう。

「鈴木、待たせて悪…!月島…なんでいる?」

部室の下で待っている鈴木の元へ急いで駆け寄ると、隣に見慣れた長身の男の姿があった。

「…夏休みの課題図書のうち、何冊か持ってるそうなんで借りるんです。なので今日は僕が鈴木を送るので大丈夫ですよ。」

だからさっきから先に帰ろうと言ってるんですけどね、と月島はブツブツと付け足した。
先日の月島による拉致事件から、先に帰る時にはできたら言ってほしいと言ってあったのが功を奏したようで、鈴木がそれを伝えるために待っていてくれたようだ。

「…いや、俺も今日はこっちに用事があるからどちらにしても一緒に行くよ。」
『そうなんですね!』

ニコリと笑う俺の言葉に、鈴木が素直に反応する。
その後ろで渋い顔をする月島が見える。
仮にも先輩に対して不満を隠そうともしないあたりがもはや気持ちいいとすら思えた。
そんな不穏な空気に一切気づかない鈴木を中心に歩き始めた。

表向きは笑顔を絶やさないまま鈴木の家に着くと、品のいい女性が郵便物を取りに外に出てきていた。

『おばあちゃん!ただいまー。』
「あら、おかえり跳子…あら。」

(やっぱり鈴木のおばあさんだったか。)

しかしおばあさんと呼ぶには随分と若々しい印象を受ける。
こちらに気づいた様子のおばあさんと目が合い、俺と月島は揃ってペコリと会釈をする。
すると優しそうな目をさらに細め、スッと姿勢よく会釈を返してくれた。
同じ会釈でも立ち居振舞いが違うと随分ときれいだと感じた。

(どことなく鈴木に似ているな…。)

そんな風に考えていると、鈴木のおばあさんが笑顔のままくるりと家の方に振り返り、穏やかな雰囲気を保ちつつ庭に向かって大きな声を出した。

「…おじいさんー!!跳子が彼氏を二人連れて帰ってきましたよぉー!!」
『っおばあちゃんっ!!』

突然の変貌に目と耳と頭がついていけないでいると、途端に庭から怒声とともに足音が響いてくる。

「なぁぁぁにぃい??!!
二人たらしこむとはさすが跳子!俺らの孫!しかしまだ早ぁぁいっ!!」
『おじいちゃんまで!!』

鈴木が慌てて、自分の祖父母の暴走を止めようと必死だ。
驚きで目と口を開きっぱなしの月島の横で、俺はにこやかな顔を崩さないように努めていた。

(おばあさんもちょっと見た目と違うのか…。)

そんな心を悟られないように。


鈴木のおじいさんとおばあさんに挨拶をし、鈴木が月島を紹介する。
ムッと顔をしかめるおじいさんとは裏腹に、おばあさんが家にあがるようにすすめてくれた。
一度は遠慮をしたが、久しぶりにケーキを焼いたので食べていって欲しいというおばあさんの言葉に、恥ずかしながら言葉より先に腹の虫が返事をした。
月島も急に目が輝き始めたように見える。

リビングに通され、男三人はテーブルについているように言われて素直に従う。
鈴木は着替えるために階段を上がっていき、おばあさんは台所へ向かっていった。

男三人では会話もなく、ただいたずらに時間が過ぎる。
鈴木のおじいさんは目を瞑って何か考えてるようだ。
月島はあまり気にしていないのか、いつもの通り飄々として見える。
なんだか自分だけが小物のように感じて、小さな苦笑が漏れた。

「…これ、いいじゃろ?」
「「??」」
「跳子が一昨年の誕生日にくれたんだわ。本当に出来た孫でなぁ。去年なんてな…」

急に話しかけてきたかと思えば鈴木とのラブっぷりを見せつけ始めたどや顔のタヌキじじ…もとい、おじいさん。

((コノヤロウ…!!))

笑顔の横に青筋が浮かんできた気がする。

すると鈴木がパタパタと小さくスリッパの音をたてながら戻ってきた。

『お待たせしました!…っておじいちゃん、何でそんな色々物出してるの??』
「いやぁ、ワシと跳子の愛の軌跡を見たいと言われてな…」
((言ってねーよ!!))
『もう!恥ずかしいからしまってよ!ケーキ出るんだから!』

一緒に片付けを始め、一人振り向いたタヌキがニヤーッと俺たちに笑いかける。

ピシッ

−…青筋が破裂したかもしれない。
俺はニコやかに鈴木に話しかけた。

「…ところで、もうすぐ(泊まりがけの)合宿だな、鈴木。楽しみだな。」
『はいっ!楽しみです!』
「むっ」

月島も反対側から話しかける。

「…クラス持ち上がりだから(泊まりがけの)修学旅行一緒だね。鈴木。」
『そうだね。きっとあっという間だねー。』
「うっ」

今度は俺たちが鈴木のおじいさんに視線を向けニヤリと笑う。

(このガキどもが…!)

3人の間に雷が走った。

「だいぶ日も延びてきたし、帰りはゆっくりでも大丈夫だなぁ。鈴木。」
『え、あ、はい。…?』
「そんな必要ないだろう。早く帰ってこんかい!」

「宿題終わらなかったら手伝ってね。手取り足取り腰取りよろしく。鈴木。」
『う、うん。(それはちょっと怖いかも…)』
「自分でやれや!しかも腰ってなんじゃい!」

(なんか、空気が澱んでる…?)

不穏なトライアングルの間でオロオロする鈴木の姿が見えるが、なんだか引くに引けない。

バチバチと飛び散る視線の火花をかいくぐって、鈴木のおばあさんがコーヒーとケーキを運んできた。

「ほほっ。みんな青いわねぇ。」

コーヒーをテーブルに置くおばあさんが一瞬誰よりもピリッとした空気を放ったように感じて、男三人は我に返る。

「「「?!!」」」

「あら。跳子、お砂糖とミルクを忘れてしまったわ。取ってきてくれない?」
『あ、うん!』

鈴木が台所へ向かい、姿を消した。

「…あなたたち、女の子を放っておいて争うなんてまだまだダメねぇ。何を於いても跳子を優先してくれるような人じゃないと、あの子はあげませんよ?」
「ぐっ…!スイマセン…!」
「…すいません…。」

口調は優しげなのがより怖い。
その雰囲気のままくるりと振り返る。

「あなたもです。一緒になって何をやってるんですか。」
「す、すまない…!」

やっぱりそういう力関係なのか、と密かに納得する。

「女の子を幸せにしたかったら、愛の言葉も態度もしっかりとしてくださいね。ワガママ言っても安心するくらいに。」

再び俺たち二人にゆっくりと言い聞かせると、鈴木のおばあさんが俺の目をじっと見つめる。

「…そうね。あなたは包容力がありそうで素敵ね。でもちょっと女の子の気持ちに鈍そうだわ。」
「??!」

驚いている俺をおいて、今度は月島の目を見つめる。
何故か引力があるんじゃないかと思えるくらい、そらすにそらせない。

「あなたはもうちょっと素直になりなさい。でも特別な相手にだけ優しいのもいいと思うわ。」
「!!」

笑顔だがどこか有無を言わせない雰囲気を感じて固まっていると、鈴木が戻ってくる声が聞こえた。
おばあさんがその声に答えながら離れていくと、肩の力がフッと抜けた。


そんな俺たちの近くにきたタヌキがバレないように小声で耳打ちする。

「…お前たち、今のうちに言っとくが跳子はばあさんとそっくりだ。魅力にはまったらもう抜け出せんし、本気で怒ると…怖いぞ。」

((…!))

戻ってきた鈴木の笑顔に、二人揃って冷や汗をかく。

−でも翻弄されるのも悪くないと思ってしまっている時点で、俺たちはすでに手遅れかもしれない。


三つ巴の闘いは、まさかの全員敗北で幕を閉じる。

男の闘いなど、所詮最強の女たちの掌の上なのだ。


リクエストありがとうございました!
意味不明なモノになってしまい申し訳ない…!


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