長編、企画 | ナノ

すぱるたんD


「あ、跳子!お前また現代文だけやってるだろう!」
『うっ。』

テストまであと2日。

図書館で彼氏を待っている間にも、しっかりと勉学に励んでいたと言うのに怒られるとは何事だ!?
…確かにやれと言われていた問題集には手をつけてないけどさ!
って口には出さずにいたのに、愛しい待ち人の大地くんにミニョーンとほっぺたを伸ばされる。

「文句言いたげなのはこの口か?ん?」
『にゅぅ。ごめんなひゃい〜!!』

いつもは部活で忙しい大地くんも、この時期はお休みになる。
なので、専ら図書館で並んでお勉強デートが定番だった。
一緒にいられるのはとても嬉しいし、教えてもらえるから本当に助かるんだけど…。
彼には若干スパルタなところがあると思うんです…。


大嫌いな数学の教科書と問題集を両方広げ、その間に顔ごと突っ伏す。

(あーうーもー全然わからーん。)

私は完全なる文系人間だ。
数学に至っては算数の時点でお手上げに近い状態だった私が、今や大地くんと同じ大学を目指して頑張っているところだ。

(…凹んでだって仕方ない!)

ガバリと顔を上げると、隣にいた大地くんがこちらを見ていた。

「…大丈夫か?わかるとこなら教えてやるぞ。」
『…ん!だいじょぶ!とりあえず参考書とってくるー。』

元来の負けず嫌いな性分のせいか、少しずつではあるが大分人並みくらいにはなってきたハズだ。
そろそろ大地くんの手を煩わせずに、スイスイと問題集を進めてみたい。

それなのに…


(くっ…!あと数ミリで届く…!)

見つけた参考書は最上段の棚に入っていた。
手を伸ばして背表紙に触れるギリギリのところだ。
台が置いてあるのも見えたけど、何故かアレを使うと負けた気分になってしまう私は、今必死に参考書と別の意味で戦っている。

…なのに神は無情だ。
最終的に顔をあげずに手だけを必死で伸ばしていたら、少し出てきていた背表紙を逆に押してしまった。

(あぁっ!?)

絶望と共に顔をあげ本の状況を確認しようとした時、すっと後ろから伸びてきた手が本を引っ張り出す。
私の顔にその手と本の影が落ちる。

ハッと気づいてうしろを振り向くと、いつの間にいたのかすぐそばに大地くんが立っていた。
彼が本棚に手を伸ばしているせいか顔が思いの外近くて、私は思わず息をのんだ。

大地くんはゆっくりした動作で本を手元まで降ろすと、詰まっていた距離が少しだけ開いた。

「…これでいいのか?」
『うん…。ありがと。』

彼の行動にかっこいいと思う気持ちと恥ずかしい気持ちと悔しい気持ちがごっちゃになって、言葉とは裏腹に眉間に皺が寄る。
それを見て大地くんが何故だか笑い出した。

「くっくっく…。悪い悪い。すぐ取ってやろうと思ってたんだけど、チャレンジしてる姿が可愛くて、な。」
『なっ!かわ…!?って見てたの?』
「ばっちり見てたぞ。そこに置いてある台をちょっと見て持ってくるか迷った結果、少し頑張れば手が届くし悔しいから自力で行こうと鼻息荒くなったところとかもな。」
『〜〜〜っ!』

そんなとこまで見られていたとは思っていなかったので、私は声にならない音を出して唸る。

「…でもそういう時に頼ってもらえないのも少し寂しいもんだな。」
『〜〜っそう思うんなら、すぐに声かけてよっ!』
「いや、でも跳子のそういうところも全部ひっくるめて好きなんだから、仕方ないだろう?」
『!!!』

意外な言葉にもはや何も言えず、私は自分の顔がボフンと爆発したように感じた。
そんな私を見て、大地くんは少し吹き出して前屈みになってまた小さく笑う。

(悔しい〜!もう怒った−!)

いつもいつも私が翻弄されてばっかり。

(もうこうなったら…!)

少し屈んでいるのに大地くんの顔は私の少し上にある。
私はいまだ笑っている大地くんのほっぺをぐっと両手で挟んで、勢いよく自分の顔を近づける。

一番上の本は届かなくても、今の大地くんの唇には背伸びすれば届く。
ここは私だけが届く場所−。


ゆっくりと唇を離して目を開ければ、真っ赤な顔をして驚いている大地くんが目に入った。
ふふんと鼻を鳴らしてしてやったりな私の顔も、きっと同じくらい赤いのがちょっと格好つかないけど。

『…頑張った子にはご褒美、でしょ?』
「やられたな…!」

恥ずかしそうに口元を片手で隠しながら、大地くんがもう片方の手で私の髪をくしゃりとかき混ぜる。

「…じゃあ俺も頑張るから。後でご褒美として、同じ大学でのキャンパスライフ、頼むな。跳子。」
『!!うん!』
「んじゃ、戻って続きやるべ。」
『はーい。』

そして二人で熱くなった顔を仰ぎながら、席に戻る。

今ならどんな問題にも、負ける気がしない。
とりあえずまずは机に広げたままの数学の問題集に、無敵な気分で宣戦布告してみよう。
相棒は、手の中にある輝く天上の参考書と隣で微笑むスパルタな彼氏だ。

確かに私の彼には若干スパルタなところがあるのですが、彼のスパルタにはおっきな愛と理由があるのです!


リクエストありがとうございました!


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