長編、企画 | ナノ

プロローグ



目が隠れるくらいに伸ばした黒くて長い前髪。

−この世界から自分が隠れるように。
−私からこの世界が見えないように。

そんな風に生きていこうと決めたのは自分なのに、私は自分を恥じている。
キライなのはこの世界じゃなくて自分自身なのだ。
それが解っていても、キラキラとした明るい場所から目を背けて歩くことしかできない。
いや。解っているからこそなのか。

それでも映る眩い光を、さらに下を向いて遮断して歩く。
灰色のアスファルトと自分のローファーだけが見えてホッと息をついたのも束の間、後方から「危ねぇっ!」という声が聞こえて、反射的に顔を上げた。

右から迫る、ヘッドライトとけたたましいクラクション。
固まったように動くことのできない身体。

思わずギュッと目を瞑った時にグイッと勢いよく肩をひかれ、身体が後ろに倒れこむ。
受け身もとれない状態で倒れたのに、私の背中に当たったのは固い地面なんかじゃなかった。

そして私の足の数センチ先を車が通過していく。

信じられないような思いで頭の中は真っ白なのに、目の前はなんとなく真っ暗で。
身体は恐怖を感じ始めたらしく小刻みに震えていた。


「オイっ!大丈夫か!?」


そんな私の真っ暗な視界に飛び込んできたのは、
本気で心配している目をした、怒ったようなあなたの顔でした−。


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