長編、企画 | ナノ

75日じゃおさまらない


※菅原さん視点です。


(この状況は、一体…?)

移動教室後の昼休み。
今日は大地が跳子ちゃんとお昼を食べるらしく、一緒にどうかと誘われたがそんなの行けるワケがない。
むしろ大地のそわそわっぷりが見てらんなかったので、授業が終わると同時に「お前もう直接行け」と大地の教科書を奪って一人教室に戻ってきた。
そんでもって他のヤツらとでも飯を食おうかと思っていたら、いつの間にやらクラス中の男連中から何故か囲まれているナウ。

「菅原!正直に答えてくれ…!」
「な、なんだよ。」
「澤村が鈴木さんと付き合い始めたって噂は本当か…!?」

…あぁなんだ、その事か。

俺は状況に合点がいき、呆れの中に少しだけ安堵の入り混じったため息をつく。
二人が付き合い始めたという事実はいつの間にやら学校中を駆け巡り、一縷の希望を打ち砕かれた男たちが涙を流しているというのは聞いていた。
こうなればもはや嘘をつく必要などない。

「まぁそうだけど…お前らソレ、どっから聞いたの?」

男子バレー部内では周知の事実ではあったが、本人たちも恥ずかしさからかおおっぴらに公表する事もしていなかった。
かといって特別隠すという訳でもなかったが、(大地の身の安全も考慮した結果)何となくあまり周囲に漏らさないようにしていただけに、噂の情報源がどこだったのかいまいちわかっていないのだ。

「やっぱりかぁぁ」「神などいない!」と血の涙を流しそうな勢いで雄叫びをあげて膝を折る男どもに、俺は先ほどの質問をもう一度投げかければ、全員が顔をあげて答える。

「「「どこも何も、澤村自身があんだけ毒まいてりゃわかるわーっ!!」」」
「…。」

…あぁ、そゆことね。っみょーーーに納得だわな。


確かに最近の大地はヒドイ。
前までは部活中の無意識な二人の雰囲気に多少俺たちはあてられてはいたが、つきあい始めた今、その甘い空気は場所を選ばない。
真面目な二人が部活中には意識的に距離を保とうとしているからか、むしろ部活中はマシになった方だとさえ言えた。

「…大地。顔。また溶けてんぞ。」
「ハッ!」

最近の大地は基本的に常に上機嫌で、というかむしろ顔が緩みっぱなしで。
一日に何度かそんな注意をするのが俺の仕事になってしまった。

「んんっ」と咳払いでごまかそうとする大地をジト目で見ながら、次の体育のためにグラウンドに向かって廊下を歩く。
その途中、反対側の校舎に跳子ちゃんの姿を見つけた。
大地に声をかければ向こうも同じくこちらに気付いたようで、幸せそうに窓際に駆け寄る跳子ちゃんはやっぱり俺から見ても可愛い。

そして嬉しそうに互いに手を振りあう二人。
降って降り返して、そしてまた降り返されて。
最初は黙って待っていたが、いつまでも終わりそうにないそれにさすがにイラッとし、大地を殴って撤退させた。
…なんか電話で互いに「先に切って」と言い合うカップルを目の当たりにしているようで耐えられなかったんだ。

元々無意識小悪魔スキンシップが多かった跳子ちゃんも、安心しきっているのかさらに油断している気がする。
それに強力だった笑顔の破壊力が何割か増して、最早最凶だ。

体育終わりに戻る時には、先ほどの反対側の校舎から跳子ちゃんがパタパタと降りてきた。

『あっ!お疲れ様です!体育、見てましたよ。澤村先輩も菅原先輩も、サッカーもお得意なんですね!』
「ハハッ、そんなことないよ。」
「ドリブルとか全然できないしな。」
「それにしても、跳子。ちゃんと授業受けないとダメだろう?」
『ちっ、違いますよ!自習だったんです!』

ふくれたような素振りをしながら、跳子ちゃんがタオルを取り出して背伸びをしながら大地の頭にパサリとかける。

『澤村先輩、汗拭かないと冷えちゃいますよ?』
「おっ?サンキュー。」

クスクスと笑う跳子ちゃんに対して大地が腰を少し曲げれば、そのまま自然と二人の顔の距離が近づく。

『キャッ…!』
「いや、悪い!」

真っ赤になりながら大地が慌てて勢いよく顔をあげるが、跳子ちゃんはタオルを掴んでいたからかそれに引っ張られ、一際大地の身体にくっつくように近くなる。

『あっ、ごめんなさい!』
「俺が勢いよすぎたな。すまん跳子。」
『いえ!全然先輩は悪くないです!それに…すごくあったかくて、私は嬉しいです…。』
「!まぁその、暖なら好きなだけとってくれ。ちょっと汗臭いカイロだけどな。」
『そんなことないですよ。』
「…オーイ、お前らー…」

俺の呼び掛ける声に、キョトンとした顔で不思議そうにこちらを見る二人。
本当に変なところで似ているんだよな…。

「そろそろ死者が出そうだからやめてやれー…。」
「『??』」

体育帰りのクラスメイトたちが至るところで倒れているのが、コイツらには見えないらしい。


そんなんだからまぁ付き合ってるのバレて当然っちゃ当然で。
しかしそんなことは無自覚な二人は、噂になってる事を伝えれば揃って首をかしげていた。

「何でそんな噂になったんだろうな…?」
『そうですよね…。普通に、してますよね…?』
「…まぁでも俺としてはその方が都合がいいけどな。」
『?』

…知るか。もうやってらんねーべ。


ひな様、リクエストありがとうございました!


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