長編、企画 | ナノ

どうぞごゆるりとお過ごし下さい


※菅原×清水、東峰×谷地要素があります。苦手な方はご遠慮ください。


「ふぅー、やっと旅館に着いたかー!」
「しょっぱなから電車に乗り遅れそうになって走るとは思わなかったべ。あんなダッシュ、部活以来だわ!」
「そう言ってやるなよスガ。仕方ないだろ。ひげちょこが一緒なんだから。」
「俺のせいなの!?いや、でも確かに駅弁が種類ありすぎて迷って遅くなったけど…。」

3人での卒業旅行。
海外に行くヤツらもいる中、俺達は国内の温泉旅館に留まった。
3人ともその方が落ち着くと意見が一致したし、代わりに旅館や飯に力を入れて選んだのでなかなか豪華な内容だ。

当初の予定通り、初日の今日はゆっくり温泉につかって観光は明日からにしようという事になり、非常にゆったりとした時間を過ごす。
こういうところに来ると、時間の流れの速さすら変わってるんじゃないかと錯覚を起こしそうになる。

(いつか跳子ともゆっくり来たいなぁ…。)

カポーンと音が響く中、俺は目を瞑って湯につかりながらそんな事を考えた。


海の幸と山の幸がふんだんに使われた豪勢な飯を堪能し、3人でおひつを空っぽにする。
食べる前に写メを撮るのをスッカリ忘れてしまったため、キレイに食べ終わった御膳を撮って跳子に送信すれば、案の定「空じゃないですか!」と怒りの返信が届いた。

飯の後に、先ほど温泉に入った時に見つけた懐かしの卓球台で一汗流し、もう一度風呂に入る。
3人ともあまりに本気になりすぎて、見ていたおばさん達に大笑いされてしまった。
結果として、おば様キラースマイルなスガとなんだかんだで可愛がられる旭のおかげで、俺までジュースをご馳走になってしまったが。

部屋に戻れば、丁寧にぴっちりと布団が敷かれている。
「おーー!」と言いながら、せっかくキレイに敷かれた布団にスガが飛びこむ。
いつも部活では"3年"であり"最上級生"であった俺達だが、3人だけになれば何となく子供じみた行動をとってしまっている気がする。
それはそれで自然な気がして、俺はクスリと笑ってしまった。

とりあえず持ってきたお菓子やらゲームやらを枕元に集め、くだらない話を始める。
なんでこう丸一日話しても、話す内容が尽きないのかは自分たちでもよくわからない。

クラス、部活、後輩、卒業、これからの将来−

そんな話題が続いた後に、案の定スガがにんまりと嫌な笑いを浮かべた。

「んでもって大地ー。直球で行くけど、跳子ちゃんとどうにかなった?」
「っ!!」
「おっ!?その様子じゃアッチも卒業か?卒業おめでとうございます、か?」
「ぶっ。ちょっ、スガ?大地に怒られるぞ?!」
「スガ、お前…仮にも爽やかキャラなんだから、それを保てよ…。」
「大地はわかるけど、なんで旭まで赤くなってんだよ〜!」

俺らを指さしてケラケラと楽しそうに笑うスガに対して、俺は負けじと言葉を返す事に決めた。

(そっちがその気なら−。)

−俺にもお前に対しての切り札があるんだ。

「…スガ。お前の方こそ俺らに何か言うことがあるだろう?」
「えっ?!」
「わかってないとでも思ったのか?…お前、清水とちょっと前からつきあってるだろう?」
「!!」
「えっ?!ちょっと!俺、全然知らなかったよ!」

驚く旭を余所に、一瞬の動揺の後、"たははー"と照れ臭そうに笑うスガ。

「…わり。二人には言おうと思ってたんだけど、なんかタイミングがなくてさ。」
「なんだよそれー!そんなんいくらでもあっただろー?」
「いや、だからこの旅行中に言おうと思ってたんだって!」

ブーブーを口を尖らせる旭に、珍しく照れて焦った様子のスガ。
俺はしてやったりと、フフンと鼻を鳴らす。

「そういう旭も谷地ちゃんとどーなったのさ!」
「えぇぇ!?俺ぇ!?どうなったって何もないよ!」
「は!?お前まだ告白してないのか!?卒業式の日に一緒に帰ってただろう!?」

スガに切り返された旭の発言に俺も驚く。
てっきりあの日につきあい始めたんだと思い込んでいたからだ。

「たたた確かに一緒には帰ったけど…!"卒業して欲しくないデス"とか言って泣き出されて、あまりに可愛すぎて言えなかったんだよー!!」
「「言えよ!!そこは!!」」

思わずスガと声を揃えて、心からの渾身のツッコミが出てきた。

「俺だってその後言おうとしたよ!!谷っちゃん家の前で!決心して声を出そうとしたら、そしたら…!」
「「そしたら…?」」
「…谷っちゃんのお母さんが、見てたんだ…!」
「へなちょこすぎる…。」

うっうっと腕を目にやって泣く旭に、脱力するようにスガと二人でため息をついた。

「…お前、いいのか?何だかんだで一番リアルにモテるの谷地さんじゃないか?」
「えぇっ?!」

俺の言葉に驚いて顔をあげた旭に、うんうんと力強く頷くスガ。

「なんというか、清水に告白するヤツって本気なんだろうけど…"記念受験"って感じがありありと出ててスゴイよな。」
「オイ、大地。お前人の彼女に何言ってんの?」
「…もしくはアン○ニオ猪木の闘魂注入待ち、みたいな。」
「何だよ、ソレ!!」

声をあげるスガが、仕返しとばかりに言葉を続ける。

「それなら跳子ちゃんの方がよっぽどだと思うね!告白に気付かずに極上の天使の微笑みで、お前のノロケを語り出すらしいじゃん?」
「うっ…!」
「目は天国だけど、心は地獄だよなー…!」
「聞いてるだけで心臓が痛い…!」

…確かにその噂は俺も聞いた事があるけど…!
仕切り直しとばかりに、んんっと咳払いをして話を元に戻す。

「…まぁとにかく、清水も跳子もそんなだけどな。谷地さんに告白するヤツって結構本気だと思うんだよな。」
「それは言えるよなー。」
「うぅぅっ。」
「「だからしっかり決めろって事だよ。旭。」」
「わかってるよ…!帰ったら、ちゃんと言うよ。」

その言葉にニッと笑って、改めて自分たちの幸せを噛みしめる。

少しの沈黙が流れ、3人同時にフッと笑った。


「…楽しかったな。」
「うん、楽しかった。」
「今日はしんみりしていいぞ、ひげちょこ。明日は目いっぱい旅行を楽しむけどな。」
「こんな時もひどいな、大地。」

そういいながらすでにちょっと泣きそうな旭。
スガとそれを笑ってつつきながらも、自分にも鼻にツンとくるものがあった。

コイツらと一緒で、よかった。
烏野に入って、よかった。
バレーをやっていて、よかった。

−ありがとう−

言葉にならない思いは全員同じだと思った。


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(オマケ)

「…にしても、俺らこの後クラスの連中との卒業旅行があるんだが、そこでも同じこと聞かれるのか…。」
「ははっ!頑張れよ大地。」

ゲッソリした俺の言葉を聞いて、他人事のように笑うスガを思わず俺は一睨みする。

「…そうなったら今と同じくお前と清水のことバラして逃げるけどな。」
「!!オイ、大地ぃ!?」
「でもまぁあの二人をゲットしたんだから、二人ともそれくらい仕方ないんじゃないかな。」

まぁまぁと宥めながら、全然フォローにならない言葉を口にする旭。


…まぁ学校中の男を敵にしたとしても、手放す気なんてないけどな。



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