長編、企画 | ナノ

エピローグ



「〜とうとうやってきました、烏野高校!」

"祝・入学"の看板が立てられた烏野高校の校門前で、大きな声を出す可愛らしい女の子に周囲の目線が集まる。
気にしない様子で校庭を覗き込む彼女の母親譲りの黒髪が風になびいた。

後から彼女によく似た顔つきの背の高い男の子がやってきて、彼女の姿にため息をつきながら声をかける。

「…海。急に走らないで。」
「空。」
「まぁ行き先はここだと思ったけど。どうせ明日から通うのに。」

確かに実際の入学式は明日だ。
双子の弟である空のもっともな意見に、海が眉根をよせて口を尖らせた。

「だってずっと楽しみだったんだもん!お父さんとお母さんが出会った烏野に通うの!」
「それは知ってるよ。」

空が一瞬フッと優しげな視線を海に向ける。
それは小さい頃からずっと言っていた海の夢でもあった。

「…でも恥ずかしいからこんなところで大声出すのとかやめなよ。」
「もう!本当にうるさいなぁ!弟のくせに!本当、そういうところはお父さんソックリだよね。でも言い方はお父さんのが優しいのに。」
「海こそ、その無茶するところは誰に似たの?」
「あぅ…。お母さんもたまに無茶したって、お父さんは言ってたもん。」

痛いところを突かれ、もごもごと口ごもる海の頭に、ポンと空が手を置いた。

「嘘だよ、海。海はイイコ。」

なんの信憑性もない言葉に納得はできないが、撫でてくれる手が心地よくて海はそのまま黙っておいた。
これだから姉と弟ではなく、逆に兄と妹なんじゃないかとよく言われるのだ。

そこへもう一人、二人を追いかけて男の子がやってきた。

「オーイ、そこの澤村姉弟!ドコ行くのか思ったらやっぱここかよ。」
「「健支。なんだ来たの?」」
「二人揃ってヒドイな!オイ!」

声を揃えて突き放すように言われた言葉に、慣れたようにツッコミを入れた健支が、そのまま二人の横に駆け寄る。
海がニッと笑って二人に話しかけた。

「もー超楽しみだね、高校生活!みんなどんなバレーするのかなぁ?!」
「海もやっぱまた男バレマネなん?」
「もちろん!」

健支の言葉に当然のように答えたあと、海はグッと両腕に力を込めて自分に気合いを入れる。

「あとねー、高校ではバレーはもちろんだけど、今度こそお母さんみたいに素敵な恋するんだから!中学では、なぜか全然できなかったし…。」
「「…。」」

二人が黙ったまま聞いていると、海の携帯が短く鳴る。
すぐに内容を確認した海が、顔をあげた。

「あ、私ちょっと友達が坂ノ下に居るみたいだから行ってくるね!空、後でね!健支もまた明日ー!」
「おー。」
「またなー!」

海の背中に手を降りながら、健支が隣に居る空にチロリと睨むような目線を向けた。

「…アイツはあんだけ空に邪魔されてんのに、全然気づいてないんだな。…そういうとこ跳子さんそっくりだべ。」
「別に邪魔してるわけじゃないよ。…あれくらいで引くんなら海にはふさわしくないってだけ。」
「それを邪魔してるって言うんだよ。」

ハァとため息をついて腕をおろした友人を見て、空がボソリと呟く。

「…健支だったら邪魔しないよ。」
「えっ!?えぇっ!?空!?」

瞬時に赤くなった健支が驚いて空を見れば、空はくくくっと肩を震わせ始めた。

「…あはは!嘘だよ。」
「おぉぉい!空、お前ふざけんなよ!」

楽しそうな笑い声が春の青空に吸い込まれる。
健支に捕まった空が、そのまま上を見上げた。
それに気付いた健支も倣うように空の目線を追った。

「…それにしても、本当によかったのかよ?空、白鳥沢から推薦とかもきてたんだろ?」
「いいんだよ。海の事ももちろんあるけど、本当は俺も昔から烏野に来たかったんだ。父さんと同じように、ここから全国に行きたい。…健支も別に無理についてこなくてもよかったのに。」
「お前何言ってんの?空にボールを送るのはいつだって俺なの!そんなの当たり前だろ?」
「…ハイハイ。」

そう言って少し赤くなった頬を軽く掻きながら、くるりと踵を返して空が歩き始める。
あまり似ていないと言われるが、照れた時に頬を掻く癖は父親と同じだ。


歴史は語り継がれ、血は受け継がれる。
巡りめぐってまたここから、新たなヒナガラスたちの進化の物語がはじまったのだ。


End.
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