長編、企画 | ナノ

Go on the spree!!



「スガぁ!俺、着替え終わったから先に旭呼んでくるわ。」
「おー頼む!…うぇっ。メイク落としが口に入った…!まじっ。」

澤村が被服室から廊下に出て、東峰のクラスに向って歩き出す。
本日の自分たちの担当時間を無事に終え、これから3人で文化祭をまわって歩く予定だ。

(鈴木は…確か14時からって言ってたよな。)

それまではまだだいぶ時間がある。
先に他の後輩たちのクラスを見てから向かおうかと思っていると、前方から東峰が手をあげながらこちらに歩いてきていた。

「大地、お疲れー!あれ?スガは?」
「おーお疲れさん。スガはまだ着替え終わってないから、ちょうど旭を呼びに行こうと思ってたんだ。」
「あ、そうなんだ。」

二人が並んで廊下を引き返すように歩き出す。
被服室のドアを開けると、妙に顔がつるつるとした菅原がペットボトルを口にしていた。

「おっす旭。来てもらっちゃって悪い。」
「お疲れスガ。なんだもう着替え終わっちゃってたかー。俺見てないんだよな。スガの晴れ姿。」
「…。」

何の気なしに言った東峰の言葉に、菅原の笑顔がピシッと固まる。
その表情に気づいた澤村が、東峰の肩にポンと手を置いた。

「…今のスガに喧嘩売るなんて、ひげちょこにしてはなかなかの勇気だな、旭。」
「へっ!?いや!そういうつもりじゃなくて…!ごめっっギャーーー!!」

被服室から東峰の叫び声が響いた。



「−さて、まずはどっから行くか?」

気を取り直して澤村がパンフレットを開く。
面倒だからと一つだけしか持ってこなかったので、菅原と東峰も横から覗き込んだ。
各クラスの紹介ページを見ながら、後輩のクラスを確認する。

「田中は…おっ。西谷のクラスと合同で劇やるらしいぞ。」
「へぇー。あ、これか!えっとタイトルは…"シンデレラvs白雪姫〜仁義なき戦い〜"…?」
「「…。」」

すでにイロモノ感がハンパない。
それでも一応観に行こうと3人が重い足取りで体育館に向かった。


「王子は渡さないわアターーック!!」
「とっとと森へ帰りなさいレシーーブ!!」

舞台の上でドレスをまとった田中と西谷の間を、毒リンゴやらカボチャやらが飛び交っている。
それを観て東峰が力なく笑った。

「スゴイなー。あの二人が主役なんだね。」
「旭…そういう問題じゃなくないか?」
「よかったなスガ、女装仲間だぞ。」
「これと一緒にするなよ!大地!」

結局3人は終わりの見えない戦いの結末を見届けることなく、こそこそと体育館を後にした。


「なんか、頭痛いな…。中でやってる展示とかでも見るか。」
「そうだね。えっと…あ、やっちゃんのところが迷路やってるみたいだよ。」
「谷地さんか…。それなら安心そうだな。」

パンフレットをしまいながら、澤村の言葉に東峰が相槌をうって歩き出した。

"迷路の国のアリス"と書かれた可愛らしい看板の前に、アリスの格好をした谷地が立っていた。
どことなくわたわたと焦っているように見える。

「わぁ、やっちゃん?!可愛いね!」
「あっ!先輩!おぉぉお疲れ様です!」
「谷地さんはアリスか。いーじゃん!」
「そんな…こ、光栄です…。」

恥ずかしそうに下を見る谷地に、澤村がふと尋ねる。

「大丈夫なのか?なんか慌ててたように見えたが…。」
「…あの、実は…」

谷地の話によれば、迷路といっても通常のそれとは少し違い、進学クラスらしく要所要所でクイズを出題し、正解すれば正しい道へ進めるというものだった。

「へぇ。面白そうじゃないか。」
「それが…。日向と影山くんが何か対抗しながらやってきて、もうかれこれ二時間くらい出てこないんです…。」
「「「…。」」」
「これはもう何か事件に巻き込まれたと考えるべきですかね?!あぁぁ私はどうすれば…っ!?」

青ざめる谷地をどうにか宥め、結局迷路には入らないままその場を後にした。
変人コンビの面倒に巻き込まれるのは御免蒙りたい。


跳子のところに行く前に少し小腹を満たそうと、出店のある外に向かっていると途中で清水に出会った。

「おぉ、清水じゃん。ドコ行く…」
「シッ!!」

菅原が声をかけると同時に、人差し指を立てた清水に3人まとめてすぐ横の空き教室に引っ張られ、そのまま静かにするよう促される。
言われた通り黙っていると、ドアの外をバタバタと通り過ぎるいくつもの足音が聞こえた。
皆口々に清水の名を呼んでいた。

音が過ぎ去ったあと、ほぉと一つ息を吐いた清水に澤村が声をかける。

「…一体何があったんだ?」
「…ミスコン。出ろって。」
「あぁ…。海では出てたのに、嫌なのか?」
「景品ないし。興味ない。」

きっぱりと言い切る清水に思わず笑ってしまう。

「この後どうするんだ?俺たちは外に行って何か食う予定だけど、一緒にどうだ?」
「あ、ごめん。クラスの子と約束してるから。でもちょっと時間余って歩いてたら捕まったの。」

それなら少しほとぼりが冷めるまでここにいようと4人で話をしていると、ふと思い出したように清水が口を開いた。

「そういえばさっきのミスコンの実行委員が、4組の子も探してたけど。」
「うち?」
「花魁の子のノミネートがどうのって言ってた。澤村たちのクラスでしょ?」
「…。」

思わず振り向いて間にいる菅原を見る。
その澤村と東峰の視線に菅原がひきつったような表情を浮かべ、清水が不思議そうに首をかしげた。



落ち着いた頃に清水と別れ、予定通り外に出た3人が所せましと並んだ屋台の間を歩く。
目的の焼きそばの屋台につけば、そのクラスの縁下と成田がヘラを持ったまま出てきた。
隣のたこ焼きの屋台からも、同じように木下が出てきて澤村たちの元へやってきた。

「ちわス。大地さんたち、食いに来てくれたんですか?」

にこやかにあいさつをしてくる3人になんだか安心感を覚える。

「…お前ら、何か問題起きてるか?」
「??いや、俺らずっと焼きそば焼いてましたけど…。」
「俺も隣でたこ焼きを…。」

何を聞かれているのか解らないといった表情のまま、それでもしっかりと答えてくれる。

「お前らは偉いな…!!是非買わせてくれ…!!」
「「「???」」」

なぜかくぅっと泣き出す3年生たちを見て、意味がわからない縁下たちが互いに顔を見合わせた。


適当に座って買った焼きそばを食べていたら、いつの間にか14時をまわろうとしていた。

澤村がだいぶ食べやすい温度になっていた最後のたこ焼きをポイと口にいれると、東峰が「あーーっ!」と大きな声をあげた。

「大地っ!!今の俺のたこ焼き…!」
「とっとと食わない旭が悪い。…そろそろ鈴木のクラスに行かないか?」

モゴモゴとたこ焼きを飲み込み悪びれずに言いのける澤村に、東峰が「せっかく冷ましてたのに…」とぶちぶち言いながらも席を立った。
菅原もそれに続く。

「そうだな。跳子ちゃん接客なんだって?あまり遅くなると人気で入れなくなってたりして。」

ニシシと笑う菅原に澤村がちょっと一睨みして肩を落とす。

「…冗談に聞こえないぞ、スガ。むしろあり得すぎて怖い。」
「でも何屋さんなの?跳子ちゃんのクラス。」
「俺はカフェって聞いたぞ。」

そう言ってパンフレットを確認すると、"シャツカフェ"と書かれている1年4組のページがすぐに見つかる。
シンプルな紹介ページが逆に目を引いた。

「しかし…なんだか普通そうだな。」

安心したような顔の澤村に、菅原と東峰が小さく笑った。

「そうだね。思ったよりもシンプルそう。ちぇっ、なーんだ。」

頭の後ろに手を当てて歩き出した菅原が少し残念そうに言う。
それを聞いた澤村がそのまま菅原に「変なこと言うなよな」と窘めた。

パンフを持ったまま二人を追いかける形となった東峰が「アレ?」と声をあげる。

「でもこれ、"モーニングコーヒーをアナタと…"とか書いてあるけど、なんでモーニングなんだろ…。」

二人がさぁと肩を動かし、そのままあまり気にせずに足を進めていく。

結局シャツカフェの横に小さく小さく書いてある一文字には誰も気づかないまま、3人は1年4組へと向かっていった。


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