長編、企画 | ナノ

ビーチバレー大会



夏の終わりのビーチでは、最後とばかりに色々な催しをやっている。
跳子が澤村と歩いていると、ビーチバレー大会の看板が目に入った。

『あっ!先輩!ビーチバレー!大会なんてやってますよ!』
「飛び入りOKか…。ちょっと気になるな。時間も大丈夫そうだし、何人か声かけてみるか。」


海で目についたメンバーに声をかけ、募集要項を見て二人一組でエントリーする。
(ちなみに研磨は断ったが日向に無理矢理引っ張ってこられた。)
組み合わせはくじ引きの結果で決まった4組になった。

澤村・黒尾
東峰・縁下
日向・研磨
影山・菅原

受付でエントリー用紙にそれぞれ記入をし、ルールがかかれた用紙を貰った。
皆で集まっているところにリエーフが飛んでくる。

「何やってるんスかーっ!?」
「ビーチバレーの大会があるって聞いたからさ。」
「えーー!?俺も出たいッス!」

リエーフがブーブーと文句を言うか、ニヤリと笑って黒尾が答える。

「ざーんねん。もうメンツ決定してエントリーしちまったからな。」
「とりあえず目に入った奴しか誘わなかったんだよ。」
「リエーフ。何ならおれと代わっ…」
「研磨ーっ!!サインとか決めようぜー!」
「翔陽っ…!いや、だから…」

作戦失敗の研磨が引きずられていき、リエーフがまた騒ぎだした。

「皆、ずりーーっ!!」
「そういや縁下…他の2年はどうした?」
「いや、さっき田中と西谷に連れられていったのは見たんですけど…。」

砂浜で地団駄を踏むように騒ぐリエーフを放置して、皆違う話を始める。
跳子がまぁまぁと近づくと、何か思いついたようにリエーフが跳子の腕をガシッと掴んだ。

「…そうだ跳子!一緒に出よう!」
『え…っ!?』

そうしてズルズルとリエーフに引っ張られた跳子も、そのまま参加することになってしまった。


ビーチバレーのルールを読みながら、ボールを触る。

「バレーボールと大きさはあんま変わんないけど、ちょっとやらかいんだな。」
「クロスを"カット"、ストレートを"ライン"と呼ぶ…へぇ。ちょいちょいルールの違いがあるな。みんな確認しておけよ。」
「このルール用紙ありがたいな。通常のバレーとの差も書いてあってわかりやすいわ。」

景品が出るせいか、大会には結構な参加人数が居ることがわかった。
貼り出されたトーナメント表を見ていた菅原が一つの名前を見て「うわ」と声を出した。

「なぁ大地。去年の優勝者って書いてあるこの二人ってもしかして…。」
「ん?…あ゙。」

嫌な予感しか感じさせない名前に澤村が言葉を失いかけた時、その名前の人物らしき男の声が聞こえて振り向くのが億劫になる。

「ほーんと、嫌になるよね。この遭遇率の高さ。」
「及川…。」
「何が嫌ってさ。跳子ちゃんに会えるのは嬉しいんだけど、絶対何か一緒についてるんだよねぇ。」

今はまだもう一つ書かれていた名前である岩泉がいないのか及川一人だった。
それがより一層タチ悪く感じる。
その及川の目線が跳子を追って、クスリと笑った。

「でも今日はそれでもいいかな〜。なんと言っても、跳子ちゃんの水着姿が見られるなんて思ってなかったしね。」
「及川、お前なぁ…。」
「…誰だ、このチャラいの。」

及川を知らない黒尾もあまり好感を持てずに眉をひそめて指を差したと同時に、跳子が及川に気付いてこちらに駆け寄ってきた。

『及川さん!?』
「やっ!久しぶり…でもないかな〜、今回は。」
『うっ、その…先日はスミマセンでした。』
「いや、それはもういいって。君たちもビーチバレーの大会出るんだって?俺と岩ちゃんも出るんだ。」
『そうなんですね!…あっ去年の優勝者って書いてあるじゃないですか!スゴイですね!』

いつもよりも仲良さげに話す二人の会話をやきもきするように見ている澤村たちに気付かず、跳子はそういえばと及川に耳打ちをする。

『あの…ちょっとだけお時間、大丈夫ですか?』
「ん〜?もっちろん!」

満面の笑みを返した及川と一緒に、跳子はその場を少し離れた。


『−先日はありがとうございました。及川さんのおかげでちゃんと謝ることも話すこともできました。』
「そっか。それならよかった。跳子ちゃんが笑ってて安心したよ。」
『それで、その。…最後に言っていたこと、なんですケド…。』
「最後??」

そんな風にとぼけてはみたが、及川はもちろん覚えていた。
跳子が帰る時に引き留めて耳打ちした言葉を。

−謝るのはいいけど、告白はやめた方がいいよ−

(確かに相談には乗ったけど、そこまで関係が進まれちゃ困るなーなんて思って軽く言ったんだけど…。)

恥ずかしそうに足元の砂を見て話す跳子を見ながら及川は思う。

『私、なんか色々見透かされているようでビックリしました…。』
「まぁね。彼、部活のことを第一に考えるタイプっぽいしさ。ダメだったら気まずいしね〜。」
『確かにフラれるのも怖いですし、私の想いは障害にしかならないのかもしれないなって思って…。』
「えっ!いやそこまで真剣に捉えなくても…」
『でも、困らせてしまうのはどうしても嫌だなって…』
「いや、ホラ!ただその点、他校の人とかに目を向けたらいいんじゃないかなっ!?」

焦る及川の言葉を聞いて、跳子がフッと笑った。

『大丈夫ですよ。この間みたいに悩んでいるわけじゃないんです。』
「跳子ちゃん…。」
『ただ私が自分で今は言わないって決めました。及川さんには感謝してるんです。』

その時、跳子を呼ぶ澤村の声がした。
及川の耳には少し苛立ちを含んでいるように聞こえる。
それを聞いて最後に改めて及川にお礼を言い、跳子が走り去っていった。

(…本当に真面目だなぁ跳子ちゃん。俺のあんな一言でそんな真剣に考えてくれちゃうなんて…。)

及川が少し困ったように笑う。

(でも悪いけど俺も結構本気、なんだよね。)

少し先で跳子を待っている澤村と目が合った気がして、及川がイーッと顔をゆがめた。


同時に複数のコートで進行しているため、順調に試合が進んでいく。
烏野の5組のエントリーのうち、日向・研磨は研磨のヤル気が2試合目の途中で尽きたために敗退が決まった。
東峰・縁下は慣れないビーチバレーのコートの小ささにスパイクが決めきれず、影山・菅原もセッター同士という異色のチームだったために、オーバーハンドのルールに翻弄されて負けてしまった。

そして準決勝では、澤村・黒尾vsリエーフ・跳子の戦いとなった。

「まさか鈴木と戦うことになるとはなぁ…。」
『そうですね…。リエーフさんが砂なんて関係ないくらいに跳べるので、ここまで来れちゃいました。』
「いや、にしたって跳子ちゃんのレシーブもハンパねーだろ。」
「スゲーぞ!跳子!」

試合前に4人で話す。
試合開始の握手をし、澤村と跳子がニッと互いに笑った。

「まぁ、俺らが勝つけどな。」
『私だって!悪いですが負けるつもりはないです!』

レシーブ巧者が3人もいるこの準決勝の戦いは、1点のラリーが長く最初はなかなか得点が決まらない。
しかし黒尾のブロックの存在と、主将二人による部員の性格の把握が勝負のカギとなった。

「リエーフ!跳子ちゃんの水着が!」
「えぇっ?!」
『リエーフさん!?振り向いちゃダメですって!』
「うぇ〜い。」
「むきぃー!ヒドイっすクロさん!」

あとは競技用ではなく普通のビキニで試合をする跳子の危うさに気づき、澤村が超本気モードになったことも大きい。
(実際それ目的で集まったギャラリーも多かった。)

『むぅー…負けちゃいました。』
「よし。俺が勝ったんだから、鈴木は罰として俺のパーカーを着てなさい。」
『えぇっ!?そんな約束してましたっけ!?』
「…いいから。これ以上日に焼けたら後が大変だぞ?」
『はーい…。』

その様子に小さくブーイングをするギャラリーを澤村が一睨みしていると、隣のコートで決勝の相手が決まる。
それはやはり順当に勝ち進んだ及川・岩泉ペアであった。


「オゥ。久しぶりだな。決勝よろしくな。」
「去年優勝したんだってな。こっちこそよろしく。」
「君、東京の人なんだって?結構やるねー。」
「…どうも。」

決勝のための最後のコート整備。
先ほど話した時にはいなかった岩泉が澤村に話しかけたのをきっかけに及川もやってきた。

その後黒尾に挨拶をした岩泉がそのまま話していると、及川が澤村に話しかける。

「主将クンが決勝に残るとはねー。」
「…どういう意味だ?」
「やだなぁ変な意味じゃないよ。…あっそうだ!」

名案とばかりに目を輝かせる及川に、澤村が嫌な予感を感じる。

「うちらが勝ったら跳子ちゃんくれる〜?」
「…鈴木はモノじゃない。そういうことなら俺はあいつの意志を尊重したい。」
「もー冗談だよ。主将くんも真面目だなぁ。…まぁどっちにしてもいつかもらうけどねー。」

にこやかに話す二人に試合開始の合図が呼びかける。

「…叩き潰す。」
「…それはこっちの台詞だよ。」


ヒヤリと夏のビーチの空気が重みを増して冷たくなる。
興味半分で出たビーチバレーが、負けられない戦いとなった。


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