長編、企画 | ナノ

招かざる三人目



「あの」
「お?」

月島が烏養に話しかける。
あまりよくあることではなかったので、烏養の顔が少しだけ驚いているように見えた。

「−高さでもパワーでも、自分より圧倒的に"上"のスパイクを止める方法はあるんですか?」

(−月島が、自分から来おった!!!)

それは珍しいどころか初めてのことで。
指導者としての感動で男泣きしそうな烏養だったが、その月島の視線が自分を見ていることに気付いて下手な咳でごまかす。

「オホン!あ〜ブロックで一番重要な事って何だと思う?」
「…高さですか?」
「―タイミングだ。」


("タイミング"…)

月島が、昨日の烏養との会話を思い出す。

兄・明光の社会人チームの練習に参加し、できあがった大人の体から繰り出されるパワーの差を思い知らされた。

色々なところで色々な人たちが、望んでもいないのに自分の中の何かを刺激し、挑発していく。
このイライラから解放されるためには勝つしかないのは本能で解っていた。
自分でもらしくないと思いながら月島は、昨日は烏養に質問をし、今日は木兎のブロック練習の誘いに素直に応じた。
その月島の姿に、周りがザワついたのは言うまでもない。


目の前のコートでリエーフが跳ぶ。しなる身体。
対峙しているのは黒尾だ。
烏養が身近の人間でブロックの手本として名前を挙げたのが、この音駒の黒尾だった。

(相手が打ち下ろして来る瞬間に、ブロックは"てっぺん"にさしかかる―)

きれいにそれがハマり、スパイクを止められたリエーフが悔しがっている。

(理屈はわかる…。後は実践でどうなるか、か。)

「おいツッキー!いつまで"見る専"やってる!?」
「スミマセン…お邪魔します。」

春高代表決定戦までに、このメンツで練習できるのもあと数回。

(…貰えるもんは全て貰う。)

以前とは確実に違う静かな闘志が宿っている目を見て、黒尾がヒュゥと小さく口笛を鳴らした。


前回の合宿からそう間もなかったが、ライバル達もさらに強くなっていた。
差はなかなか縮まらないが、それこそ烏には望むところだ。
代表決定戦までに遠征に来られるのは残り後1回だけ。
武田の言葉通り、"貪り尽くす"のみ、だ。


休憩時間中、烏野が集まって風に当たっていると黒尾が研磨を連れてやってきた。

「よぉ。」
「おぉ。そっちも休憩か?」

澤村が立ち上がって答えると、黒尾が妙な質問をする。

「跳子ちゃんから聞いたんだが、今回もOBの人がバスで連れてきてくれたんだって?」
「?あぁ。OBの大学生だよ。大学が休みだからって、コーチたちの部屋に泊まって帰りも送ってくれるそうだ。本当にありがたい話だよなぁ。−って、それがどうかしたか?」

澤村の言葉に全員でしみじみと頷いていたが、そもそもの話の意図がわからない。
全員が見つめる中、ニィッと黒尾が笑った。

「…ついでに帰りのバス、俺と研磨も乗っけて連れてってくんね?」
「「「はぁ!?」」」

素っ頓狂な声を出した烏野メンバーと一緒に、名前を出された研磨が驚きの表情を見せた後に怪訝な顔で黒尾を見る。
しかし黒尾は至って本気のようだ。

「俺らはまだ夏休み中だしな。宿題のための休みとさらに点検で体育館使えねーので、2日間も休みで暇なんだわ。ダメか?」
「バスは先生の許可さえもらえれば特に問題はないが…。俺らは明日からも学校あるぞ?」
「昼は適当にまわってっから、練習だけ参加させてもらえりゃいい。」
「…クロ、勝手に決めないでよ。おれは家でゆっくりしたい。」
「じゃあとりあえず、ホテルと帰りのバスだけ予約すっか。」

了承も聞かずに携帯を取り出して話をサクサクと進めていく黒尾に対し、ため息をついた研磨がもう一度抗議の声をあげようとするが、日向の元気な声に遮られた。

「ちょっとクロ…」
「研磨!宮城来んの!?じゃあおれん家泊まればいーじゃん!」
「翔陽…、だからおれは行かな…」
「…おチビちゃん、俺は?」
「ひぃっ。」
「コラコラコラ。日向を怖がらせるんじゃない。」

黒尾に笑顔で上から見下ろされ、蒼褪めた日向をかばうように澤村が間に入る。

「はぁ。仕方ない…じゃあ黒尾はうちに来るか?」
「おっ。さすが主将。話がわかるねー。サンキュ。」
「ってお前ら二人だけなの?他は?」

菅原の質問に、ホテル予約をやめて携帯の画面を閉じた黒尾がそのまま肩を竦める。

「根本的に宿題終わってないヤツが多いからな。終わっててもまぁ女がいりゃそっち行くし、家族でどっか行くヤツもいるしな。」
「まぁそりゃそうか。」

結局研磨の抗議の声は飲みこまれ(日向の"ゲームやろうぜ!"の一言で、少しウキウキ顔をしていた)、今度は二人が宮城に参戦することになる。


「じゃあ出発するぞー!」

烏養の声に皆の返事が揃った。
ここから高速の入口は近い。

ズルいズルいと大騒ぎだった音駒の部員たちをなだめ透かして無事に乗り込んだ黒尾と研磨が、その座席に深く座って一息ついた。

「うぇーい。研磨、着いたら牛タン食うか。」
「…はぁ。どっちでもいいよ。」
「跳子〜!お菓子あるぞ!」
『あぶっ、危ないですから座ってください!』

ん?

(今後ろからどこぞのライオンの声が聞こえたような…?)

まさかな、と思いながらぎこちなく振り向いてみれば、当然のように跳子の隣に座ろうとするリエーフの姿。

「…ってリエーフ!?てめ何で乗ってんだ!?」
『えっ?ダメだったんですか?!リエーフさん、最初から普通に乗ってましたよね?』
「お前ぜってー宿題終わってねぇだろが!」


何はともあれ、宮城参戦者、一名追加。



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