長編、企画 | ナノ

狼へのカウントダウン


鐘が厳かに鳴り響く外に出ると、途端に吐く息が真っ白になる。
寒さはしっかり残っているが、雪は止んでいた。
近所の神社とは言え年が明けると同時にたくさんの人が並び始めるので、跳子と一緒に少し早めに向かうことにした。
あまりの寒さにうちの両親は自宅待機だ。
俺らもそうしたいのはヤマヤマだが、全国大会と受験を控える身としては神頼みもしておきたい。

『大地、何が欲しいのか教えてよ。』
「だから全国大会に応援に来てくれればそれでいいって。」
『そんなのプレゼントじゃなくたって行くに決まってるのに!』

俺の葛藤の末の答えとも知らずに、跳子は未だにプリプリと怒りながら歩いている。
お前が欲しいなんて言った日にはどうなるのか想像もつかない。

神社にはすでに少し行列ができ始めているが、この分ならそんな長く待つことはなさそうだ。
ちょうど並び始めた場所が焚き火の近くだったので、火の粉にさえ気を付ければラッキーな場所だ。
手袋ごと手を火の方にかざす跳子が、炎に赤く照らされる。

『そういえば旭も誕生日だよね。』
「あぁ。1月1日生まれだもんな。」
『今年は旭のプレゼント、何にしよっかな。』

クスクスと楽しそうに笑いながら口にする跳子の言葉に、俺はふと思い当たる事があった。

『あのいかつさを際立たせるサングラスとか…』
「…なぁ。跳子は他の奴らのプレゼントはいつも自分で選んでるよな?」
『え?』
「俺だけ毎年聞かれてるなーと思ってさ。」
『えっ、あ、うーんと。』

何気なく思って口にした事に、跳子が何故か焦りを見せはじめた。

『私が一番あげたいもの、大地が欲しいかはわからないし…!』
「?別にそんなの気にしなくても。お前が選んでくれるなら何でも嬉しいぞ。」
『うっ、選ぶっていうか、そのー…。』
「?何?」
『あの、ね。』

そう言って耳打ちされた言葉は、紛れもなく俺が欲しかったモノで。
驚いて見返した跳子の顔が赤いのはもう焚き火に照らされてるからだけではないことが解った。

「跳子、そのプレゼント最高に嬉しい。」

俺は思わず目の前の跳子をギュっと抱き締める。

周りが大きな声で読み始めたカウントダウンと共に破壊されるのは俺の理性。
この状況で、それを誰が責めることができようか。


−俺の本性を簡単に解き放つのは。



大地さん、HAPPY BIRTHDAY!!


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