七.第一回夫婦会議

捕獲した名前を部屋に連れ戻し、ベッドに座らせ鬼灯も向かいあうように腰をおろす。

「それでは第一回夫婦会議です」
「うわあすごく唐突ですね!嫌な予感しかしない」
「議題は、どうすれば夫婦として周りに認識されるか、です」
「あの、話聞いて下さい。周りに認識されるって…そこ重要ですか?」
「噂好きでお喋り好き、その上口の軽い閻魔大王のせいで私達の間柄は昨日の時点で少なくとも獄卒中に知れわたっています」
「はい!鬼灯さん!私が閻魔様に手ェあげたら罰当たりますかね?」

全く、あのアホ大王にも困ったものだと鬼灯は漏らした。
できることなら彼女はあまり環視に晒したくなかったのに。しかし獄卒にまで情報が届いているのなら遅かれ早かれ野次馬根性のある輩が放っておかないだろう。
それに誰がいつ、“つい”でぺろりとあの猫又記者やどこぞの神獣に口を滑らせてしまうか分からない
熟慮の末鬼灯は結論に至った。
ならばいっそオープンに見せつけてやれば問題無い、という結論に。

「…朝食でも食べに行きますか」
「何処で食べるんですか?」
「食堂です」

名前は「へー楽しみです」とへらへら笑いながら楽観的に言い放つ。
彼女が出会った日に見せた不安そうな表情や態度は今はもう見る影も無い。
名前は随分神経が太……順応性があるらしい。

「地獄の方達って何食べるんですか?」

まるで子供のようにキラキラとした笑顔で問いかけられ、鬼灯は不覚にもときめいてしまった。

「鬼灯さん?」
「…そうですね。鬼は血の池で煮た脳吸い鳥の温泉卵や…大王はこの間シーラカンスなんか食べてましたよ」
「シーラカンスて………ええと、のうすいどりって何ですか?」
「脳味噌を吸う鳥で脳吸い鳥です」
「…何の脳味噌吸うんですか」
「亡者です」

三秒程沈黙があってから名前がゆっくり口を開いた。

「てことは、人間ですよね」
「そうなりますね」

笑顔のまま名前の顔からサッと血の気が引いた。


蒼白な顔面で廊下を歩く名前の足取りは重い。先程の話で食欲が無くなったらしい。

「地獄の食文化に馴染める気がしません……」
「普通に牛肉とかもありますよ。人間にとって特殊な食材や珍しい食材はありますが現世とそこまで大差ありません」
「それなら良いんですけど…あの、さっきから何でそんなに見つめて……」
「イエ別に……強いて言うなら嫌がる名前さんに無理矢理食べさせるのも一興かな……と」
「強いて言わなくて結構です」

今のは、冗談だった。勿論全く見たくないわけでは無い。

「あの、鬼灯さん私のこと嫌いなんですか?そんな事ばっかり言って……」

大きな目が不安気に鬼灯を見上げる。
名前の言葉は鬼灯の気持ちの確認ではない。あざとい質問でも無い。
只の純粋な疑問にすぎない。それなのに心の何処かで喜んでいる自分がいる。
それを誤魔化す為に一、二本彼女の顔にかかったふわふわのパーマの髪の毛をそっと耳にかけてやる。
照れたような、驚いたような表情で忙しなく目を動かしながら名前の顔は赤らむ。
鬼灯は答えた。

「冗談ですよ。名前さんはからかい甲斐がある」

宥めるように名前の頭を撫でると、一瞬呆けた後顔を真っ赤にして顔を背けられる。

「地獄のジョークは分かりません」

と、言い頭の上の手を払いのけられながら鬼灯はほぼ確信した。
自分が“好きな子程苛めたくなる”状態に陥っていることに。
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