非番勤務もほどほどに


「よう、名字じゃねえか」

帰り道、名前が寄ったコンビニで話しかけてきたのはTシャツとグレーのだぼついたスウェットにクロックスを履いたラフな格好の男だった。
一瞬誰だか分からなかったが、特徴的な髪の毛を見てすぐにダニエル・ロウ警部補だと気付いた。

「ダニエルさん。こんばんは」
「仕事だったのか?」
「はい。今帰りです」
「そりゃご苦労な事だが…その服装はいただけねえな」

びしりと指をさされたのは名前が着ているセーラー服。
確かに時刻はもうとっくに頂点を越えている。いくらHLと言えども何も知らない警官や大人が見れば学生が夜遅くに出歩いて、と思うだろう。
スウェットのポケットに手をやったダニエルに気付いて名前が思わず警戒すると、彼はニヤリと笑って何も持っていない両手をひらひらと振ってみせた。

「本当なら補導してやる所だが…今日は俺も非番だしな、特別に見逃しといてやるよ」
「…ありがとうございます」
「しっかし未成年なのにスカーフェイスの野郎、遠慮なくコキ使ってんなァ。俺の職場ならもっと優遇するぜ?」
「すみません、そのお誘いは受けかねます」
「冗談だよ、冗談。ジャパニーズはおカタすぎる」

飲料と酒類コーナーの前で二人は話を続ける。
名前は慎重に言葉を選ぶが、彼は腹の探り合いや隙を窺っているような態度ではない。
ダニエルは名前の雰囲気がどことなく柔らかくなったようにも感じていた。

「家はこの辺りなのか?」
「はい。」
「じゃあ送ってってやる。こんな時間に女一人じゃ万が一があるかもしんねえだろ」
「…すみません、お気持ちは嬉しいですが」
「安心しろ、ガキにゃ興味ねェ。それにお互い勤務時間じゃねえんだ、たまにはメリット無しの付き合いといこうぜ」

ダニエルは横目で名前を見ると、扉を開けビールを二本取り出す。
名前はミネラルウォーターのボトルを持ってその場を離れようとした。
しかし名前は動かずにダニエルの動きを阻むよう彼の前に立ちはだかった。
そして彼の顔へ向かって右手を突き出すと、自らの示指の指腹へ一気に母指の爪を食い込ませた。勢いよく流れ出た血液が両刃型の斧を形成する。

「オイ何のつもり――…」

突如出現した武器にダニエルの顔が訝しげに歪んだのとほぼ同時に、冷蔵棚の向こうから商品を押し退けて伸びる、銃を持った一本の腕があった。
それは寸分の狂いなくダニエルを狙っている。

「!!」

間際で察知した彼が驚きながらも反射的に顔を逸らし、名前は狙いを見失った腕へ、斧を叩き込んだ。
その攻撃で冷蔵ショーケースの向こうから商品と共に一人の異界人が引きずり出され落下した。痛みで身動きが出来ないのだろう、腕を押さえ込みうずくまって呻いている。
ダニエルは無言で、転がり落ちた銃を拾い上げた。

「44口径マグナムのビヨンド改造型だ。頭ぶっ飛ぶどころじゃすまねえ」
「…こちらの方に見覚えはありますか?」
「この間摘発したヤク密売の末端組織で取り逃がしたヤロウだ。大方復讐にでも来たんだろうよ」

ダニエルはスマートフォンで電話をかけ始めた。
その間、名前は倒れた異界人に血液で手錠をかける。

「ダニエル・ロウだ。先日の残党を取り押さえた、至急応援頼む。――…さてと」

通話を切り、ダニエルは名前に向き直る。

「助けられちまったな。何か奢るぜ」

そう言うと彼はショーケースに隣接しているアイスクリームコーナーから高いアイスに向かって手を伸ばす。名前は慌ててその腕を掴んで止めた。

「私も非番なので、先程のは私の勝手な行動です」

ダニエルは一瞬呆気にとられた顔をして、ふっと表情を綻ばせた。

「………無表情なツラして結構なお人好しだな」
「………それでは、失礼します」

ダニエルに頭を下げ、ミネラルウォーターをレジへ持っていく。会計を済ませ店を出ると、だんだんと近付いてくるサイレンの音が聞こえた。
騒がしくなってきたコンビニを少し眺めてから、名前はきびすを返して帰路へついた。

・リクエスト内容「夢主と事件とは関係なく出会ったのに事件に巻き込まれてしまうお話or警部補が夢主を心配するお話」
折角ですのでどちらの要素も詰め込ませて頂きましたが、あまり心配はされてない気がします…。すみません。

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