夜明けとしあわせ
「名前ー今暇か、暇だな。つーか俺が今お前んちの玄関の前」
「うわあマジかよ」
夜、突然ザップが訪ねてきた。
最早私の部屋はコイツの都合の良い駆け込み寺である。
まあいつものことなので迎え入れて、まあその後はなし崩しの流れというか彼とは一応恋人なのでまあそこは何というか。
「ちょ…!早い!早いて!」
「あームリもうムリ。俺のインフィニットマグナム爆発する。つーか今更だろ」
「や…!」
ともかく、疲れはてた身体で、睡魔に降伏を掲げて眠りに落ちていくのは心地良い。
「………………」
「ぐおー」
深夜に目を覚ますと、アホ面下げて大イビキかいてザップは寝ていた。私の隣、シングルベッドを我が物顔で半分以上占領している。
部屋は彼の吸っている葉巻臭くなっていた。
私の前では何でか知らないけど吸わないので私が寝た後も起きてたのだろうか。
「………」
ザップはまだアホ面で寝ている。
銀髪はムカつくくらいサラサラ(女物のシャンプーの匂いがする。腹立つ。しかも私の使ってるメーカーじゃない。更に腹立つ。)で褐色の肌は少しかさついている。そんなコイツの頬を少し撫でて、私は彼の腕が私の背に回るように動かした。
彼の腕は温かくて、やたらに眠気を誘ってくる。
「………あー、何でこんなクズ好きか、な………」
「………………」
翌朝。
私は眠たいのを我慢してキッチンへ向かった。ベーコンと目玉焼きとトーストを焼いただけ。簡素なご飯を持って未だに気持ち良さそうにイビキをかくザップに蹴りを入れる。
「起きろクズ!」
「いでえ!あにすんだゴリラ女!」
ベッドから転がり落ちるザップ。すっぽんぽんである。
「恋人に向かってゴリラとは何だゴリラとは。とっととその無防備なマグナムしまって朝ごはん食べろ」
「へーへー。毎度毎度涙ぐましい甲斐甲斐しさだな。お前マジで俺のこと好きだね」
床に落ちていたパンツを履いて、ザップは椅子に腰掛ける。ザップの前に彼の分の朝食を置いて私も向かいに座った。
「…アンタもこんなゴリラ女の部屋に通いつめるなんて相当私のこと好きだね」
「あったりまえだろ、好き好んでこんな部屋来るかよ。いざって時はここぐれーしか来るとこが…」
「………………ほぉーう?つまり私のこと大好きで緊急時ここぐらいしか頼るところがないんだ?へーえ?」
「に…!ニヤニヤしてんじゃねえ!バーカ!ゴリラ!」
「何よその悪態つか照れ隠し。小学生か。ちょ、食べかす飛ばさないでよ!」
「うるせえ………………くっ、お前顔面きたねえぞ…」
「誰のせいよ誰の………………ふっ、ザップも顔真っ赤…」
食べかすだらけの顔と真っ赤になった顔を合わせて、私たちはしばらくの間大笑いした。
お腹を抱えて笑いすぎて座るのもままならなくなって、椅子から降りて、それでも笑いは止まらなくて、床に転げてまだ笑って、向かい合って抱き合った。
安アパート、狭いベッド、普通の朝ごはんに、一緒にいる度しがたいクズの愛しい恋人。
そしてカーテンを開けた窓からは朝日が差し込んでいる。
今はそれだけで幸せだなんて絶対に口には出さないけれど、私もザップも思っている。
私も彼も随分安上がりでお手軽で、本当お互い様だ。
「ヨーシ今日の予定は私のこと大好きすぎるザップくんによる奢りデートに決定〜」
「ああ!?おま、ふざけんな俺の今の所持金5ゼーロだぞ!」
「えっ、堂々と言わないで」
・リクエスト内容「付き合っている設定で二人で朝を迎える」
すみません、何だかとてもほのぼのです…。
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