ランチ後の誘惑


昨日は深夜に任務だった。
家に帰ったのは夜が明ける直前で、眠くないしまあ寝なくてもいいかと安易な考えで私は家で起きていた。そうしたらまだ日も昇らない時刻にまたスティーブンさんから電話が掛かってきて任務へ向かった。
流石に疲れたので休憩がてら昼寝でもしようかと思って日本食屋さんで買ったお弁当とおにぎりと緑茶を持ってセントラルパークへ行くと、ベンチで顔面蒼白で寝ているザップさんを発見した。

「…ザップさん?」

声を掛けても反応は無い。
心なしかザップさんの頬は痩けていて、お腹回りも大分ほっそりしている。
大丈夫かこの人、と一応もう一度起こそうとすると腕を掴まれてぐっと引き寄せられた。

「………………」
「め、」

朦朧とした顔から発せられたのは、たった一つの単語。

「メシ………」
「………………」

ニューベセスダ噴水の周辺はピクニックやランチを楽しみに来た人達でいっぱいだった。
私達も噴水のふちに腰掛けて、私はおにぎりを食べ、ザップさんはお弁当と緑茶をかきこんでいる。
聞けば彼は三日ほど食にありつけていなかったらしく、それを聞いてしまえばお弁当を譲らざるを得なかった。
みるみる生気を取り戻していくザップさんの顔を見て、私は呆れ半分安心半分の複雑な気持ちだった。

「うおおお生き返った!」
「………………」

胡麻塩がふりかけられた白米のみ平らげてザップさんは叫ぶと、箸でおかずの一品を指した。

「これ何だこの陰毛みてえなの」
「…ひじきの五目煮です…」
「ふーん。お、うめえ」

何で食事中にこんな発言できるんだろう、この人………。

「つーかお前そんだけで足りんのか?」
「………………」

私の食べ終わりかけのおにぎりを見て、ザップさんは首を傾げた。
貴方が三日も食べてないって言ったからですけど。とは言えないので、私は沈黙しておいた。

「だあからお前はヒンソーな体なんだよ。おらこれ食え焼き卵」
「あのそれは焼き卵ではなく卵焼きで…んむ」

口へいきなり卵焼きをずぼっと突っ込まれる。
しかも余計なお世話な言葉つきで、である。
一度口に入れてしまった物を出すわけにはいかないので、出汁入りの卵焼きを噛み締める。
元々私のお弁当のおかずなのに「うまいか?」としきりに聞いてくるので黙って頷くと、ザップさんは「そうか」と言って嬉しそうに笑った。

「………………」
「じゃあこれも食えこれも」

ザップさんはしいたけの煮付けや漬物をお弁当の蓋に乗せて私に渡してきた。
嫌いな物を押し付けられている感が微妙に否めないが、ザップさんなりの優しさだと信じて受け取る。
お互いに昼を食べ終わり、時計塔を見上げるとまだ昼休憩は三十分以上残っていた。
ザップさんの分もごみを捨ててきて同じ場所で何かを喋るわけでもなくぼうっと景色を目に映す。
ザップさんは何だかメールをしているようなので話し掛けずにいると段々と睡魔が襲ってきた。
疲れている上に適度にお腹がいっぱいになった状態なので当然と言えば当然だ。

「………………」

うつらうつらと舟を漕いで、次第に私の意識は薄れていった。

◆◆◆

「………ん?」

左肩に急に感じた重みに、俺はスマートフォンを切ってそちらを見ると、名前が平和そうな寝息と共に俺に身を任せている。
いつも無表情なせいか、そのあどけない寝顔はガキ臭いことこの上ない。

「………………チッ、手間かかる後輩だな」

内心は全然そんな事を思っていない癖に、俺は裏腹な言葉をぼやいてスマートフォンをポケットにしまう。代わりにジッポと葉巻を出して、それで残りの昼休憩を潰すことにした。
暇で暇でしょうがない筈なのに、別にこのままでも良いかなと一瞬思ってしまい、何だかムシャクシャしてきたので俺は胸いっぱいに煙を吸い込んだ。

・リクエスト内容「ザップと夢主のほのぼのデート」何だかんだで優しいザップさん。

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