セーラー服と秘密結社 | ナノ

青春の煌めき 1/1   

先の半神召喚事件によって予期せずして一時オープンスタイルに転向したダイアンズ・ダイナーでは、事件の立役者であるレオナルド・ウォッチが約束した皿洗いをはじめ、店の手伝いをせっせとこなしていた。
ゴミ出しが一区切りついたところで、レオは手を洗うとポットを片手に、あるテーブルへ向かう。
そこには自分の新たな職場に勤める四人が座っていた。
図体にそぐわない小さなカップを持つ、秘密結社ライブラのリーダー、クラウス・V・ラインヘルツ。
机に突っ伏して眠る黒スーツの美女、チェイン・皇。
バブラデュゴバーガーの脚を引きちぎり豪快に食べ進めるザップ・レンフロ。
無表情にコーヒーを飲むセーラー服の少女、名前・名字。
改めて四人を見て、レオは少し笑みを浮かべると名前の前に置かれたカップが空になっていることに気がついた。

「コーヒーのお代わりどうぞ」
「ありがとうございます、レオナルドさん」

小さく会釈をして礼を言った名前は年不相応に丁寧な態度と言葉遣いだ。
何か話題は無いものかと、レオは彼女に話し掛けた。

「えーと、名前さん?」
「はい、何でしょうか」
「名前もその、ここにはよく来るんですよね?」
「そうですね所謂常連だと思います」
「へえー」

そこで、会話が終了した。正確には中断されたのだ。
レオと名前のやり取りに噴出したビビアンによって。

「アンタたち、堅苦しすぎ!クイーンズじゃあるまいし!」
「え、いや、でも」

自分からぐいぐいとコミュニケーションをとってくるケインのような小さな子供は別として、ビビアンのようにタメ口で構わないと相手から言われない限りは敬語で接するのが名前の基本スタンスだ。
勿論、明らかに目上の人間や上司に対しては断るが。
そんな中「あのー…」と恐る恐る手を挙げたのはレオだった。

「俺はタメ口呼び捨てでも全然…ていうかレオナルドって長いし、レオで良いよ」
「………………」
「あ、勿論名前がよければなんだけどさ」

名前は少し目を丸くしてレオを見つめると、少し躊躇いがちに自らの手を差し出した。

「よ、よろしく…レオ」

レオはすぐに笑顔を浮かべてその手を握り返した。

「俺の方こそよろしく、名前」

一方名前の隣ではその様子を快く思っていない者もいた。
隠さずともザップである。
ビビアンを含め仲良さげに談笑を始めた彼らの姿を見て、バブラデュゴバーガーのバンズに指がめり込む。

「…何仲良くなっちゃってんだよあそこのミジンコチビコンビはよぉ」
「僻んでんじゃないわよ、銀猿」
「な、起きてたのかよ雌犬、つうか僻んでねーよ!」
「あっそ」

心底興味ないと言った風に投げやりな返事をすると、チェインは再び眠りについた。
ザップはもう一度横目で三人の様子を窺う。
隣の名前は自分が知っている彼女よりも格段に表情豊かで笑っているようにも見える。
腹の辺りから湧いてきたモヤモヤした感情が、胸から喉にかけて燻り始める。
元々我慢が性に合わないザップはすぐに彼らの会話へ割り込んだ。

「やいやいやい!そこのジャパニーズロリセーラー!」

バブラデュゴの昆虫的な片足を口から飛び出させて、名前を睨みつける。

「…ロリセーラー?」
「あだ名みたいなものだから、気にしないでビビアン。…どうかされましたか?」
「…!」

いざ、名前に用件を問われ、ザップは言葉を詰まらせた。大の大人、しかもザップのような性格の男がもじもじとする様子は少し気持ち悪い。
そして、何故か照れながら彼は話し始めた。

「お、お前との付き合いも半年くれー経つことだしな…俺にもタメ使うの許してやんよ!」

ザップは妙にキメ顔で名前に言った。
名前とレオは彼の申し出に思わず渋面で閉口し、ビビアンは何かを察したようにハッとすると、にやにやしながらザップと名前を交互に見始めた。

「………………」

何とも言えない空気になったこの場を救ったのは、一つの呟きだった。

「馬鹿の極み…」

寝ていると思われていたチェインの呟きに即座にザップが食って掛かる。
最早脊髄反射並の速度だな、とレオは冷静に観察していた。

「クソアマもっぺん言ってみやがれ!!」
「言ったげるよ、馬鹿の極み。恥晒しも良いとこね」
「言いやがったなコラ!表出ろや今日こそケリつけてやる!」
「ザップ、ここの料理を楽しまれている他の客に迷惑が掛かる、もう少し声を落とし給え」
「旦那!?漸く喋ったかと思ったら何で俺だけ!?」

喚き出すザップを少し遠巻きに見ながら、レオは名前に質問した。

「…ざ、ザップさんっていつもあんな感じなの?」
「まあ、うん…」

名前も、何というかフォローの言葉が出てこなかった。
数分間の沈黙の後「あ、でもね」と思い出したように切り出した名前に、レオがそちらを見ると。

「ああ見えてザップさん、優しくて良い人なんだよ」

レオを見上げてそう言った名前の顔は、僅かに微笑んでいてビビアンに見せるものとはまた違った柔らかな雰囲気を纏っている。
その違いにレオが小さな違和感を抱きかけた時、彼は気付いた。
ザップの巨大化した耳がこちらを向いていることに。
なるべくそれは視界に入らないようにして、会話を続ける。

「…そ、そうなんだ?」
「うん」
「おいおいおい聞こえてんだよゴルァ!ロリセーラーてめーそんなにザップさんのことをよろしく思ってんなら思う存分に称えやがれ!」
「………………」

嬉しそうな照れたようなザップを見て名前の表情が再び無に戻った。
無というよりは、相手をするのが面倒くさそうな顔だ。

「よく分かんないけど、二人も結構仲良さそうですよね」
「いやーあれは仲良いって言うよりさ…」

言いかけてビビアンは口を覆った。
レオが首を傾げてそちらを見ると、彼女はさっと目を逸らした。

「…ビビアンさん?」
「…やっぱ何も無い。ほらレオもさっさと仕事戻れよ、パパが睨んでるぜ」
「えっ、うわ、すみません!」

カウンターの向こうからの厳しい視線を感じ取り、レオは速やかに仕事へ戻る。
その後、既にレオが疑問を忘れてしまった頃何の気なしに彼らが座るテーブルを振り向いた。
そこには名前にバブラデュゴバーガーの片足を食べさせようとするザップに、無表情だが微妙に迷惑そうな名前、今にもザップの頭上から彼を踏んづけようとするチェイン、そして彼らを微笑ましく見守るクラウスがいる。

「おーいレオ!皿溜まってんぞー」
「あ、はーい!」

レオは後一度だけ、と再び彼らを見て、少し笑みを浮かべると急いで皿洗いを片付けに向かった。

第18話 ― 青春の煌めき ―

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