セーラー服と秘密結社 | ナノ

魔封街結社 Chapter-2 Watchman Leo 1/2   

少年を庇ったクラウスを見てフラッシュバックしたのは夢の女性の姿だった。
目と思考を奪われたそのたった一瞬の差は大きい。
間一髪で血の防御が間に合い、辛うじて防いだものの邪神の斬撃は重く、余所見をしていた名前はすぐに吹き飛ばされ壁に叩きつけられた。
遠くでビルが崩落する音が聞こえる。

「………さん…!………ウスさん…!!」

吹き荒ぶビル風と誰かの叫ぶ声が、叩きつけられた衝撃によってぼんやりとする名前を覚醒させた。
彼女が目を開き最初に飛び込んできた光景は、天井を失ったオフィスと鉢植えの残骸、そして血にまみれたクラウスと必死に彼を呼ぶ少年の様子だった。
痛みで少し動きが鈍い身体を起こし、彼らの所へ駆け寄る。

「…クラウスさん…!」

彼は横腹を切り裂かれ大量に出血している。
呼んでも返事はなく、ただ不規則な呻き声がするだけだった。
目の前の光景と夢の女性の姿が重なる。
彼女もまた、自分の腕の中で血を流して冷たくなっていた。
最悪の予想が名前の四肢を震わせ、彼女はその場に座り込んだ。

「…クラウスさん…僕を…庇って…!!!…どうして…!!」
「そこに理由がないのがこの男なのよ。強いて言えば貴方が「そこに」「いた」のが理由ね」

チェインの声がして、名前はハッと正気に戻った。

「いつまで経っても利口にならないわ。私達のボスは。」

まだ手足の震えが止まらない。依然クラウスは倒れている。
このままではいけないと、立ち上がらなければと強く思っても震えが治まらない。
すると、突然誰かに腕を掴まれた。
その褐色の大きな手は強めの力で手首を包んでくる。腕を辿って見上げると、その腕はザップのものだった。
彼の灰色の瞳が静かに光をたたえ名前を見下ろす。

「ボサッとしてんじゃねえ、クソメスガキ」

ザップは力任せに名前を立ち上がらせると、プイッと背を向けて今度は少年へ詰め寄っていく。
少しよろめいてから名前は震えが治まった手を握りしめた。
一方、少年へ詰め寄ったザップは彼の襟首を掴み持ち上げる。

「おいコラ、やっぱりお前が差し金かこのガキ」

少年のささやかな抵抗などザップは意に介さず、彼の首を締め上げる。
苦しそうな声が少年の口から断続的に漏れ、名前は慌ててザップを止めに入った。

「ザップさん、彼は…」
「うるせえロリセーラー!!頭までブルってんのか?じゃあ何でここでゲートが開いたんだ、俺らのうち誰かが堕落王にキャトルミューティレーションかアブダクションでもされてゲートにされたってえのか!?明らかに外部から来たコイツが原因だろうがよ!」
「…違う…手を離すんだ…ザップ…!!」

背後から重々しく聞こえたクラウスの牽制と否定の声に、彼と名前が振り向いた。
クラウスの隣にいるチェインも呆れた口調でザップに辛辣な言葉を投げ掛ける。

「アンタこそ脳みそ使いなさいよクソ猿。ミスタークラウスが「このままでは死ぬと判断して庇った」のよ?」

ザップは少し考え込み、やがて納得がいったように口を尖らせて手の力を緩める。
突然解放され、少年は成す術もなく床に落下し蛙が潰れたような声を上げた。

「………そうか…被害が及ぶのは周囲のみ。ゲート仕込んだ本体がおっ死ぬポカを堕落王が犯すはずもねえ」

この場で生きていて無傷の者が、ゲート。
そしてライブラの事務所にはこの五人以外にまだあと“一匹”いる。

「てことは…まさか…」

五人の視線がゆっくりと同じ方向へ向かう。
ビルの切断面に平然と座りビル風に吹かれる一匹の猿。
少年の胸元で気絶していたあの猿だ。
その身体はどこを見ても無傷、無事そのものである。

リアクションは違えど、全員が「お前かー!!!」との驚きを隠せなかった。

「チェイン!!」
「了解」
「結局お前の持ち込み企画だったな」
「すいませんごめんなさい知らなかったんです本当に!!」

チェインはスーツの袖を少し持ち上げると、眉尻を上げた集中した表情で猿と向き合う。
両手を構えた明らかな捕獲のポーズを見て、猿が怯え後ずさった。
世界の安否が懸かったその様子を少年だけが息が詰まらせるような緊迫の面持ちで見守っている。
一方名前とザップは、街で散り散りに活動している他の仲間へ現状の通達を手分けして行っていた。
連絡を済ませ、スマートフォンをポケットに入れた直後「しまった」と声がして名前がそちらを見ると、チェインが躊躇なくビルから飛び降りたのが視界に入る。恐らく猿を追いかけていったのだろう。

「…がはッ」
「クラウスさん」
「動くなよ、旦那」
「…もうすぐ…警察が…集まる」

絞り出すような声と共に、彼の口の端から血が落ちる。

「ああ。面倒な事になる前に移動するわ。仲間への通達も今済ませた。旦那は下手に動かねえ方がいいな。悠々と搬送して貰えるぜ」
「…済まない」

クラウスは、ふと視線に気が付いた。
心配そうに自分を見下ろす少年に、何と声をかけようかと彼は言葉を選び――

「あー…元、ジョニー・ランディス君?」
「―――レオです。レオナルド・ウォッチ」

クラウスの言葉に彼ははっきりと簡潔に返した。
そして小さく頭を下げて謝罪を述べる。

「…すいませんでしたミスタ・クラウス。そして助けていただいてありがとうございます」
「…君は…見えていたね?」
「あ……はい…猿の方から厚みのない巨大な腕が…」
「え…」
「何だって?」

名前は黒い瞳を驚きで少し丸くした。
自分が最初に確認できたのは斬撃どころかビルの切り目だった。
しかしレオは斬撃だけでなく腕まで視認している。
そして驚いているのは名前だけではなかった。
隣のザップも訳が分からないといった風にクラウスに食って掛かる。

「…どういう事だ旦那!!俺はあの攻撃を目の端で捉えるのに精一杯だったんだぞ」

クラウスは手でザップの言葉を遮ると、再びレオへ視線を向ける。

「君のその「眼」に関係しているのかね?…さっき言っていた「どうしても知らねばならない事」は」
「…はい…」

レオは、少し間を置いてから答え、そして静かに語りだした。
自らの身に起きた事を、まるで懺悔するように。

「あれは…丁度半年前でした」
1/2
prev / next

[ list top ]


×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -