セーラー服と秘密結社 | ナノ

P.M3:00のティータイム 1/3   

潜入捜査の数日後、名前はクリーニングから返ってきたドレスを持ってテラスへ出る。
水をやってから、未だに芽が出ない鉢植えとまだ種が残る小さな袋を持って家を出た。
ライブラ事務所で、如雨露片手に植物の世話をしているクラウスにアドバイスを貰う為だ。
事務所の別室で彼が数え切れないほどの植物を育てているのを、ギルベルトに見せて貰った事がある。

鉢から土が溢れないように、名前は慎重に屋上を跳ぶ。
隣を、大きな腹に謎の液体と臓器を大量に詰めた蚊に近い謎の生物が群れで横切る。
人畜無害なのかは知らないが襲ってこないのでお互いに通りすぎた瞬間、些細な違和感に名前は振り向いた。

「………………?」

近くのビルのフェンスに着地し群れを観察する。
異形の群れに混じり、共に翔ぶ一匹のコウモリ。
後ろ姿しか捉えられなかったが確かにそれは悠々と朝の空を舞っていた。


「おはようございます」

名前が事務所の扉を開けると、クラウスが本を片手に卓上に置かれた盤の駒を動かしている。
余程集中しているのか、名前の挨拶にも気付かずに本と盤上を交互に見ながら時折呟いている。
ギルベルトはどうやら別室らしく、姿は見えない。
名前はソファの横に鉢と種を置き、ソファに座るとようやく彼女に気付いたクラウスが身体を動かしてこちらを見た。

「………す、すまない気が付かなかった。おはよう名前」
「いえ、おはようございます」

名前はクラウスが向かう卓に歩み寄る。
盤面は一見チェスボードに近いが、四隅には更に一つずつ小さな盤面が浮かんでいる。

「…何のボードゲームですか?」

その時心なしかクラウスの緑の瞳が輝いた気がした。
そしてそれは決して気のせいではなく、彼は拳を握りしめ少し頬を紅くして語り出した。
見たことがないその表情に名前は一瞬怯む。

「これはプロスフェアーと言って、将棋とチェスを融合させ発展させたゲームだ。非常に難解だがとても奥深く………」

以下三十分程クラウスのプロスフェアーに対する熱弁が続き名前は律儀に話を聞いていた。
物静かなクラウスがここまで語るという事は相当このゲームが好きに違いない。
話の途中で何度か挟まれたルールは複雑極まりなかったが、生来真面目な名前は御丁寧にクラウスに質問しながら話を進めていく。

一通り語り終わり満足そうな顔になったクラウスは嬉しそうに名前に駒を差し出した。

「一度指してみるかね?」

彼の強面はかつて無い程嬉しそうにキラキラと煌めいていた。
その迫力と表情に気圧されて名前はつい、「はい」と返事をしてしまったのだ。
1/3
prev / next

[ list top ]


×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -