(………幸せだな)


隣で眠っているアスベルのおでこに1つキスを落とす。身じろぎ一つしない彼はいまだ深い眠りのなかにいることを知らせてくれる。まだ目は覚まさない。目を覚ます時間ではない。フレンにとって甘い蕩けるような時間が過ぎていく。アスベルの隣でアスベルの寝顔を見ているこの時間がフレンにとっては至福の時間だ。だってまるで眠り姫を守る騎士のようではないか!



「いつまでもこうしていたいよアスベル………」



もうすぐアスベルが起き出す時刻になってしまう。この後のことを思って少しだけ憂鬱になった。きっとアスベルは、暴れ出してしまうから。外に出たいと、泣き喚いてしまうから。アスベルの泣き顔は好きではない。嫌いだ。彼にはいつでも笑っていてほしい。彼が起きた世界には、悲しいことしか待っていないから。せめて寝ている時だけでも………




「フレン………さん………?」




僕の瞳のなかに彼の空色の瞳が映る。大きく開かれたそれはたちまち恐怖で潤んでいって水を溜める。ああ泣かないで。泣くことなんて何もない。すぐにまた、僕が幸せな夢を見せてあげるから。君の笑顔は、僕が守ってあげるから。だから。


「ごめんねアスベル」


僕は傍らに置いてあった注射器を手に取った。



***



「薬の量を増やさなくちゃな………」



フレンは眠るアスベルの頭を愛し気に撫でながら一人ごちた。アスベルの両の腕にある無数の痕は誰でもないフレンがつけたものであって、他人からみたら痛々しいそれもフレンにとっては愛しさを増長させるものでしかなかった。アスベルのすべてが愛しい。その言葉に嘘も偽りもなかった。歪んでいる。そう罵ったのは誰であったろうか。もう忘れてしまった。アスベル。僕には君さえいればそれでいい。それでいいんだ。




「………いっそのこと飼い殺してしまおうか」



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