ガイルクミラ
捏造設定





ルーク・フォンファブレは潔癖症だった。それは彼が小さな頃から世間から遮断され、隔離され、囲われた鳥籠のような生活を送ってきたせいなのかもしれないと彼の指導者兼唯一の理解者であるガイ・セシルは言った。ルークは少し心が疲れてしまったんだ。ルークは常に息苦しい生活を強いられてきた。外にも自由に出ることができない不自由な生活。だからこそ汚いものや、汚れたものに不快感を示すのだ。彼はそう語った。


「外の世界は汚くて醜い。それでいて野蛮だ。家の中とはまるで違う。正反対なんだ。家の中は全てが整っているのにどうして外はあんなにも穢れてんだ?
俺は外になんて出たくない。出る気もない。綺麗なものだけに囲まれて俺は生きていくんだ。」


ルークはことあるごとにこう言った。
それでもガイはそれで良いのだと思った。外に出る必要なんて彼には無いのだからそれなら彼の希望通りこのまま家の中で暮らした方が良いに決まっている。なにより彼の決めたことなのだ。美しいものにだけ囲まれて、一生汚らわしいものなど見ることなく生きていければそれが彼の幸せなのだと。外に出るにはルークにはあまりに敵が多すぎた。外面的な話だけではなく内面的なものにでも、だ。ガイはルークが望むままにルークの世話をする。それが彼の責務であり、生き甲斐だった。





はずだった。






ある日ルークは失踪した。普段と何も変わらない日常からルークだけが忽然と姿を消した。いつもの時間にガイがルークの私室に夜食を持ち運びに行った時のことだった。部屋を開けてなかを見渡すとそこにルークの姿はなくあるのは主人のいないやけに片付いた空虚な空間だけだった。勿論屋敷の者たちは大騒ぎ。当たり前だ。ルークは用事がある時以外は自分の部屋すら出て来ようとはしない。やむを得ない事情がある時にのみ彼はその固い扉を開くのだ。もちろんその表情は嫌悪感で満ちてはいたが。


しかし話はルークだけにはとどまらなかった。同じ日にルーク専属のメイドであったミラ・マクスウェルも姿を消したのだ。潔癖症で、あまり人を好まないルークがただひとりミラだけには嫌悪感を示さなかった。一目見た瞬間ミラを自分の専属メイドに就任させ自分の傍らにミラを常に置いておいた。ミラはルークと同じように世間知らずで高圧的な一風変わった人間だった。それでいて好奇心が強く、とても外の世界に興味を持っていた。ルークの教育係であるガイとしてはミラをあまりルークの隣にいさせたくはないというのが本音だった。ミラは良く外の世界のことをルークに吹き込んでいたから。それでもルークの反応は素っ気ないものだった。ミラが熱く外の世界について語る反面、ルークは全くといっていいほどその話に無関心のようにガイには見えた。気だるそうに頬杖をついている姿がガイにそう見せていたのだ。だからこそガイは安心しきっていた。ルークは外の世界になんて行かないんだと。家の中で一生不自由のない生活を送るのだと。そう決めかかっていた。




(………まぁ、その結果がこれなんだけどな)




ガイは今までに何度も見てきたルークの、お世辞にも綺麗とは言えない字で殴り書きされた手紙を開けた。宛名は自分。ルークから自分に宛てられた最後の手紙。ガイはルークの本心が綴られたそれにそっと目を通した。そこに書いてあるのはただ一言だけだった。ルークがガイに最後まで伝えることができなかった言葉。なんだこれ。ガイは小さく笑ってルークらしいなとはにかんだ。




それは「ありがとう」とだけ綴られた手紙。




大きな便箋に見あった大きな文字で書かれた「ありがとう」。たった一言。それでもガイは堪らなく愛しかった。ルークの想いが全て詰まった宝物だ。生まれて初めてルークの本心が聞けた、そんな感じがしてーーーー胸が締め付けられた。ちゃんと、ルークの口から聞きたかったな、なんて思ってしまった。ルークは自分で決めて自分から歩みだしたのに、なんて自分は女々しいのだろうか。




(………ミラにはちゃんと、自分の口から伝えるんだぞルーク)




汚いもので溢れている世界にルーク自身が足を踏みだしてまで傍にいたかった存在に告げる言葉なんて一つしかない。
まだ幼いルークが言うには少し大人びた言葉。ガイはルークがミラにその言葉を告げている場面を想像して穏やかに笑った。結局自分はルークが幸せならそれで良いのだ。外であろうと中であろうと、そんな些細なことは端から関係なかったのだ。ガイはそう確信して、この世界のどこかにいるであろうルークを想って空を見上げた。


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