両片思い
ベルさんが何か歪んでる




「んー、何だったかなー」



自分のちょっと前の記憶を辿る。発端とか、切欠とか。何も思い出せないし、思い出すつもりもない。だけれども。目の前には少しだけ意地っ張りな弟の怒り顔が一つ。うーん。どうしたものかなあ。怒られたくないから考える素振りをして時間をやり過ごそうとするけれど、生憎姉弟に割り当てられたお部屋が同じなんですよねこれがまた。自分が部屋を出れば良い話なのかもしれないけれどドアの前に立たれてるんです悲しいことに。覚悟を決めてヒュー、と一言呼んでみる。「なんですか」やけに刺々しい言い方にお姉さんもうめげちゃいそうです。とりあえず今自分が弟に伝えなくてはいけないこと。それは、




「………なぁヒュー、今日はレモンカレーが食べたいな」
「え?馬鹿なんですか?」




弟がいつもにまして辛辣です




「………ば、馬鹿ってなんだよ!酸っぱいものが食べたい………けど甘口カレーも食べたい………どうしよう………あ!そうだ!檸檬も甘口カレーも食べたいなら、檸檬カレーを作ってもらえばいいじゃないかっていう私の新しく素晴らしい発想、」
「最早病的です」
「い、意外と檸檬の酸っぱさと甘口カレーの甘さが相まっていい風味を、」
「醸しだしません」
「………むー………まだ最後まで言ってない………」
「………貴方は根本から馬鹿なんです、大馬鹿なんです、愚かなんです。………愚かわいいなんて思ってませんよええ断じて。ラントの領主ともあろうお人がどうして親しいとは言え下町の人間である二人組に連れられ甘口カレーを食べる予定のはずが彼等の家に連れ込まれて自分自身が食べられちゃってるんですか………!?どこのアニメですかどこの漫画ですかどこのエロゲですか!!あり得ません。あり得ませんあり得ませんあり得ませんあり得ません!!とにかくあり得ません!!何度でも言います。


あ り え ま せ ん」
「………ん?………え………え………ヒューが何を言っているのかよくわからないんだけど………」
「………………親しいとは言えどうしてあの二人なんです………?せめて、せめてリチャード国王なら僕だって………」
「………なぁんだ」
「………何か言いましたか姉さん」
「ん?いや、何も」
「………貴方は少しは反省してください!!ラントのこれからはどうするんですか!!下町の人間との子供だとばれたら領民だってーーーー」




(………リチャードなら、良いんだ)




私は3つ、ヒューには内緒にしていることがある。まず一つめ。記憶がないなんて、大嘘。何も忘れてなんかいないし、忘れてなんかいけない。それはユーリとフレンさんに会いに行った少し前の話。ユーリとフレンさんに無理を言って、話を合わせてもらった、あの時の話。


「私のお腹のなかに、お二人の赤ちゃんがいることにしてくれませんか」



ヒューのいう通り、馬鹿みたいだよな。想像妊娠ならまだしも、人を巻き込んでまで妊娠してるってことにしたいなんて。勿論断られた。フレンさんなんて、法と秩序を守る私の大好きな騎士そのものなのだから当たり前だ。それでも頼んで、頼んで、頼み込んで、理由も話して、半ば無理矢理承諾させることに成功した。(ユーリが自分の味方についてくれたのが大きかったのかもしれないけれど)これが二つ目の内緒。



(でもなにより)



そして最後の内緒は全ての始まり。私がある人を好きになったから。私の一番好きな人に、少しでもこっちを向いて欲しかったから。自分以外の他人を、少しでもその目に映してほしくなかったから。些細なことではダメだ。なるべく大きなことでなくては、彼はこちらを見てくれない。彼の姉という立場を利用して、さらにはラントのこれからにも影響のあることを言わなくてはーーーーあぁ、なんてこと。私欲のために領主という立場まで利用して。最愛の弟をここまで悩ませる。姉失格だな。ごめん、ごめんヒューバート。








(ヒューが少しでも自分を考えてくれて嬉しいなんて、思ってごめん)



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