注:エステル嬢があらゆる意味で病んでます




「どうですフレン可愛らしいでしょう?」
「はいとても可愛らしいですよエステリーゼ様」


この会話だけを他人が聞いたのならばなかむつまじい恋人同士のように捉えられるかもしれないけれどそうではない。エステリーゼは最近、編み物にはまっている。編み物といってもマフラーや手袋といった類いのものではない。それはぬいぐるみだった。何日も何日も時間をかけ、愛情を注ぎ、可愛らしい動物を模したぬいぐるみをエステリーゼは作り上げるのだ。猫や犬、鳥や兎……なかにはライオンと思わしきものまである。大きいものから小さなものまで本当に様々で………同じ種類の動物でも顔の造りは少しづつ変えられていたりもした。エステリーゼはどの動物の、どの種類の、どのぬいぐるみも同じぐらい、平等に愛しているかのようにフレンには見えた。


「……エステリーゼ様はどのぬいぐるみも平等に愛しているのですね」
「……平等に愛している?いいえ、フレン。平等に愛していたんです」
「………?」


なにが違うというのだろうか。
疑問を隠しきれず首を徐に傾げたらエステリーゼはぬいぐるみを編んでいる金具を動かし続けながら話を続けた。


「……大きいぬいぐるみと小さいぬいぐるみがあるでしょう。大きいぬいぐるみは、私が特に愛したぬいぐるみなんです。例えば……この猫のぬいぐるみなんて、リタみたいじゃありません?リタみたいに素直じゃなくて、意地っ張りで……でもとても優しい……そんな風に作ったんです。可愛らしいでしょう?」


かつて共に旅をした仲間の一人の名前を出したエステリーゼの表情は幸福そうで、どこか恍惚としていた。何かが引っ掛かってフレンはさらに首を傾げる。……そういえばリタの姿を最近見ていない気がした。


「あちらの鳥はレイヴンに似せて作ったんです。軽そうに見えて実はとても思慮深い……この犬はカロルで……そう、このリスはパティ!!どれも私のお気に入りなんですよ」
「……エステ、リーゼ……様……?」


エステリーゼが今名前に出した全ての人間を最近目にしていない。リタはエステリーゼの友人だから、よく城まで遊びにきていた。それなのに最近はどうだ?レイヴンもギルドの仕事は勿論あるけれど、元部下である騎士たちから頼まれて城下まで赴いていたはずなのに……

エステリーゼの話はまだ続く。



「でも、今一番好きな人を、一番愛したぬいぐるみを仕上げているんです」
「エステリーゼ様が……一番……?」


今彼女が編みすすめているものは……何だ?白色の毛糸を巻いて……さわり心地のよさそうな上質な布で……まさか、いや、そんなはずは、自分の考えを否定するかのように考え直すけれど、嫌な予感は消えない。いや、違うそんなはずないエステリーゼ様がそんなことをするはずーーーーー


「……エステリーゼ様、今作っているのは……」
「……ふふ、もう気づいているくせに」



エステリーゼは作り終わったであろうその真っ白いな兎のぬいぐるみにそっと口づけをし、微笑んだ。僕はただ放心するしかできなかった。僕にとって、大事な人達はもう、



「……あ、フレン。一つ、質問しても良いです?」
「……は、い………?」



エステリーゼはそれはもう嬉しそうに楽しそうに、愉しそうに言った。茶色の毛糸をちらつかせて、天使のような微笑みでーーーーー




「フレンは犬と猫、どちらが良いです?」


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