カゲロウデイズパロ
アスベル視点





「……また、駄目だったよ」



一人、青年は誰に言うのでもなく呟く。眼前に広がっているのは散々繰り返された結果。何度もやり直した結末。変わらない……結局何度やりなおしても、何度繰り返しても変わらない。最後にいきつくまでの過程が少し変わるだけで、結局何も変わらないのだ。それでも青年は繰り返した。何度でも、何度でも、何度でも、何度でも。この悲惨なエンディングが変わることだけを信じて、青年は繰り返し続けた。青年にだって分かってはいたのだ。もう無理だということくらい。そう簡単に変えてはいけないということぐらい。頭ではわかっていても、それでも僅かな希望を捨てることなんて青年には出来なかった。いつか、いつの日かこの結末が変わるのではないか。青年は拳を振り上げて時計を叩き割った。がしゃん。次こそは、絶対に。歪む視界の中で青年はただ一人、黒髪の彼のことだけを考えて目を閉じた。次こそは、絶対に ……絶対に。



(貴方の存在だけが俺の救い。だから俺は貴方を死なせはしない)




目を開ければほら、愛しい彼が遠くで俺を助けようと手を差しのべてくれている。料理がうまくて、愛想はないけど誰からも頼られて、信用される優しい彼。その彼が今、俺のために手を差しのべてくれるのだ。それは何て幸福で、何て不幸なことなのか。青年は頬に伝う涙に気付かない振りをして……目をそっと閉じた。クラクション音がやけに煩く頭の中で響いて、赤いランプが視界を奪う……あぁ、これで良いんだ。これがきっと正解なんだ。そっと彼の方を見れば黒髪の優しい彼が必死で自分に向かって走ってきて……でももう間に合わない。自分勝手でごめんなさい。最後まで迷惑かけてしまいましたね。それでも貴方は優しい人だから。生き続けてほしいから。だから俺は




「……さよならユーリさん」


「……アスベルっ!!」




酷い衝撃音の後に全身が軋む。感じたことがないほどの痛み。それでも俺は幸せだった。だってこれで彼は死なず
にすむのだから。俺は彼を守りきることができたのだから。これほど嬉しいことはなかった。何度も数えることが出来ないほどに繰り返してきた残酷な結末を、俺は漸く変えることができたのだ。ユーリさん。俺は幸せでした。幸せだったんですよ。



(……だから、そんな顔しないでくださいよ)



ユーリさんが俺を抱き抱え声を殺して泣いていた。俺は彼を抱き締め返してあげたかったのに、それなのに俺ときたら指の一本も、もう動かせそうにはない。ユーリさん。ユーリさん。俺、思うことがあるんです。貴方が生きてくれて良かったって。貴方の運命を、変えてあげられて良かったって。最後くらい、笑ってくださいユーリさん。ユーリさんは何も言わずに拳をあげた。遠退いていく意識の中で、その動作にあまりに見覚えがあることに気づいて、知らないはずの、この結末を何故か知っているような気がしてーーーーー聞き慣れた、時計を割る音が聞こえた。





「……また、駄目だったよ」






がしゃん







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