しろくろの続きのようなもの
にょたべるver
モブアス表現ありヒュアス






「おろしなさい」

弟であるヒューバートが語気を強めて言いはなった言葉に私は思いきり顔をしかめてしまった。あの生真面目で優秀な弟が、人の生を蔑ろにするなんて信じられなかった。押さえたお腹は日に日に膨らみを増していき、今では私の中に生命が宿っているんだと実感できるまでに大きくなった。でも私が幸せそうにお腹を撫でるたびにヒューバートは怒るのだ。あり得ない、とかふざけている、とか……ついには私に向かって堕ろせとまで言ってくる。……私のために言ってくれているということはわかっている。だからこそ私のことは放っておいてほしかった。自分がどれだけ酷いことをしようとしているのか、それは自分が一番よくわかっているのだから。


「おろしなさい」
「……ヒューバートの頼みだとしても、その願いだけは聞き入れられそうにないよ」
「……これは懇願ではありません。命令です。あなたは自分が何をしようとしているのか、分かっているのですか。何て、何て恐ろしいことを」
「分かっているさ。だからこそ……だからこそ私のことは放っておいてほしい。……だってヒューバートには……関係ない……」
「……貴女はっ!!」
「ごめん……ごめんねヒューバート………ほんとにごめんね……でも私は産みたいの産んでやりたいのーーーたとえそれが人として間違った行為だとしても……」
「……っ」


ヒューバートはまるで彼が小さな時のようにぼろぼろと涙を溢して私のために泣いてくれた。……優しい優しいヒューバート。私の、たった一人の弟。例え全く知らない人から出来た子供だとしても、せっかく私から生まれることを選んでくれた命を捨てることなんて……私には出来ない。名前も分からない……そんな父親の分までこの子は私が愛してあげるんだ。そう、この子だけが私の生き甲斐。私の生きる意味ーーーーそう思わなければ、あまりにも自分が惨めすぎるから。ごめんねヒューバート。こんなお姉さんでごめんね……ごめんね


(せめてお前は幸せに)



アスベルはもうヒューバートを見ない。アスベルはまだ当分産まれもしないこどものことだけを考えて自分の腹を擦り続けた。………ああ、何て酷い結末だ。ヒューバートは泣いて赤くなってしまった目でアスベルを想った。姉さんをあそこまで壊した人物逹は、とある人物の手によって最悪の苦痛と共に息絶えたと風の噂に聞いた。ヒューバートはそれが悔しくて堪らない。大事な大事な姉さんを無理矢理犯した奴等は僕が殺してやりたかった。僕がこの手で……この手で……でも何より……そんなことよりーーーー姉さんは、姉さんは僕が守らなければならなかったのに……!!


(僕は姉のために、何も出来ないのか)



姉の透き通るような蒼い瞳に光はもう灯らない。感情をなくした姉は、ただただ自分の子供が産まれてくることだけを願って時を過ごすしかないのだ。


(そうだとしても)


ーーーーせめて。
せめて、彼女の父親の代わりに自分が姉の隣にいてあげよう。愛する姉のために僕が出来ることなんて、何もないのかもしれないけれど。それでもまた彼女の笑った顔が見たいから。





僕が不器用に……それはもう不器用に姉の掌にそっと自分のそれを重ねたら、姉はくすりと笑って、「ヒューバートが父親みたいだな」と、おかしそうに笑った。





悲劇のような喜劇の話





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