下腹部に爪をたてると、びくりとアスベルは身じろいだ。微かに吐息を漏らしながら、ぴくり、ぴくりと僅かにうごく。触る度に反応を示すそれはまるで女性のようだった。しかしあくまでそれは見えるだけだった。アスベルは女なんかではない。何度こいつの中で果てても腹が膨らむことはない。こいつが女だったなら、俺の子供を産むことだって出来るのに。そんな思考を持った俺の指は自然と彼の腹を触り、そして撫でる。肌に触れるその度にぴくぴくとまたもや反応を示す。とても不思議だった。


「な、に」
「なんでも」
「あ、……は」



深く息を吐いて耐える姿が艶めかしい。声、だせばいいのに。赤茶色の髪を揺らしながら彼は必死だった。必死に、俺を求めてた。まるで離すなとでも言われてる気分だ。こいつは決して認めないけれど、俺の背中には常に爪痕が残る。赤い線が何本も。アスベルからの所有印。消えることはない。なら俺は?何も無い。彼の中に果てて終わりだなんて。そんなの。



そんなの。




「ゆ……り……?」
「……アスベル、ちょっと、我慢しとけよ」
「……、?なにが、……ぎ、っ!?」
「ほら、もうちょっともうちょっと」
「う、ひ、ぃた、……っ」
「痛いか?当たり前か、素人がやってるんだもんな、痛くない方がおかしいよな」



空になった注射器をくるりと回して相手に見せる。素人が打った注射は当たり前だが相当痛いらしい。アスベルは打たれた片腕を抑えて身を縮こませた。その瞳には疑問と不安が混じり合っていて。何を打ったんだと訴えかけてくる。さあて、何でしょう。答えなんて言ってやらない。どうせ暫くたったら分かるのだ


「即効性じゃないから今は分からないけど、いつか分かる時がくるさ」
「危ないものじゃ、ないのか……」
「さあ、危なくはないんじゃないか」
「……いたかった」
「悪かったって謝るよ」
「もういい」


ぷいと向こうを向いてしまったアスベルに俺はもう一度悪かったと謝った。笑いながら。ごめん。悪かったって。アスベルは膨れ顔だ。ごめん。ごめん。でもお人好しのお前はゆるしてくれるよな。アスベルは完全に怒ってしまった。これはもう最終手段を使うしかなさそうだ。



「ほら、アイス奢ってやるからさ、機嫌直せよ」
「……ふたつなら」
「仕方ねえな」



後ろ向きのアスベルの頭をがしがしと力強く撫でてやるとまた一言痛い、とアスベルは呟いた。遠くでがしゃんと硝子の割れる音がして、まるでこいつのようじゃないかと少し思った。
俺はアスベルを抱き締めながらもう一度ごめんと謝った。





(お前のこれからを台無しにして)











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何の薬かはご察し