わんちゃんから




※Fate/Zeroの切嗣×綺礼をいただいちゃいました!!
※わんちゃんありがとうありがとう...!
※わんちゃんのピクシブIDはこちらです【3217609】




青白いモニターの光だけが煌々と照らし出す薄暗い隠し部屋で、黒いコートの男が慣れた仕草でポケットを漁る。流れるように取り出したジッポが硬質な音と共に紅い火を灯した。

シュボッ

そんな微かな音にさえ、火照った身体は敏感に反応して震えた。
口許に咥えた煙草に火をつけると、ジッポを再びポケットの中に落とす骨張った手に視線が吸い寄せられる。
瞳を眇めると年相応に目元にうすく皺が寄り、暗闇の中に煙草の火が赤々と燃え上がった。吐き出された紫煙は、呼気に従って水平な線を描いた後に虚空に溶けて消えた。

「さて。」

それを合図にしたかのように切嗣がようやく口を開く。

「キミへのお仕置きはどうしようかな。」

瞳と口許が線対称の弧を描く。
僅かに覗いた舌先は、血のように鮮やかな紅だった。

「キミの紅茶に入れたのは、所謂媚薬というやつさ。」

身体が熱いだろう?と問う口許は相変わらず笑みを浮かべている。
その言葉に抗うように歯を食い縛って熱い呼気を噛み締めた。
それでも鼻孔からはフーフーと獣のような息が漏れる。

「ははっ、そんなことしたって無駄だよ。」

いっそ爽やかとも形容できる笑い声をあげながら、切嗣が大股で近寄ってきた。
後ずさるように身体を引くが、思ったより自由が効かずに身をよじるだけに留まる。
手負いの獣のように眼光鋭く身を縮こまらせるが、切嗣は薄い笑みを張り付けたまま腰を折ってぐいと顔を近付けた。
お互いの呼吸を感じるほどの距離で、子どもに言い聞かせるような口調でゆっくりと囁く。

「これからもっと強い刺激を与えるんだからね。」

言葉の意味を理解する前に、胸が詰まるような衝撃とともに切嗣の笑顔が遠ざかる。
胸元を蹴られたのだと理解したのは、未だカソックを踏み付ける革靴と背中に当たる冷たい床の感触を認識してからであった。
そのまま遠慮なしに体重をかけて踏み込まれ、グゥと獣の唸りのような喘ぎが漏れる。
肺を直接圧迫される苦しさに生理的な涙が滲む。
目尻に溜まった涙が粒を作る頃になってようやく足を退けられた。
一気に流れ込んだ酸素に咳き込んだ反動で頬をつうと涙が伝う。

「ゥ、げほっ…貴、様…ッ!」

眉を顰めて切嗣を睨み付けると再び胸元を革靴が踏み付ける。
先程の苦痛を覚えた身体が無意識に強張った。
切嗣の足は体重を乗せることなく悪戯に胸元を彷徨っている。
なんのつもりだと口を開こうとした瞬間、電流が走ったような衝撃が襲った。

「アッ…!?」

媚びるような声が出たことに1番驚いたのは自分自身だ。
慌てて口を両手で塞ぐが、伺うように上げた視線の先では切嗣が片眉を釣り上げてこちらを凝視している。
しかし僅かな驚きを滲ませた表情もすぐに崩れ、にんまりとしたいやらしい笑みが顔いっぱいに広がった。

「そんなによかった?」

ココ、と踵が引っ掻くのは分厚いカソックに守られた胸の飾りだ。
ぐりぐりと捏ねられるように弄られるとたまらず腰がビクビクとのたうった。

「や、やめろっ…!」
「だーめ。」
「ウ、アアアッ!」

未知の感覚に戸惑いながら切嗣の足首を掴むが、愉しそうな一声と共に更に強く押し潰され、顎がガクンと仰け反る。
胸元の鋭い刺激は己の下腹部になんとも言い難い感覚となって蓄積していく。

(なんだ、これは、私はこんなもの知らない、知ってはいけない。)

高鳴る鼓動も、荒くなる呼吸も全てが耳にうるさかった。
早くこの感覚から逃れなくてはと思うのに、甘い刺激に痺れた身体は言うことを聞かず、ただビクビクと震えるのみ。
ほとんど力の入らない右手で切嗣の細い足首に縋り付く。

「やめて…くれ、お願いだ…。」

我ながら情けないとは思ったが、生涯知り得ることのなかった甘い痺れは綺礼にとって恐怖でしかなかった。
更に、敬虐な信徒である己の一部が、浅ましい欲望に身を捧げるこの行為に警鐘を鳴らしているような気がした。

「どうしてそんなに嫌がるのかな?」
「わ、私は、こんなもの知らない…!」
「知らないものは、こわい?」

小首を傾げて優しく投げられた問いに、唇をきゅうと噛んでこくりと頷く。
その様子に切嗣は満足そうに瞳を細めた。

「ふ…未知なる物を恐れるのは生物の生存本能だ。恥じることはないよ。でもね、今はキミは1人じゃないだろ?」
「…?」
「僕がいるじゃないか。」
「何を…言っている?」
「僕がコレの正体を教えてあげるって言ってるんだよ。」

知らないものは、こわくないよね?
残酷なほどに優しい笑みを浮かべて、何時の間にか移動していた革靴が胸板より遥か下部を踏み潰した。

「ァ、……ッ!!!」

強すぎる刺激に、悲鳴すら出ない。
遠慮なくぐりぐりと股間を踏み潰す踵に、顎が外れそうなほど口を開け、ガクガクと痙攣するしかなかない。
鋭い痛みが脳天を直撃し、目の前に火花が散る。
しかし、真に恐ろしかったのは痛覚ではなく、暴力によって生まれるはずのない歪んだ快楽だった。
小刻みに中心を刺激される度に、下半身全てが震えるほどの快感に支配され、腹のあたりでぐるぐると渦巻いた圧倒的な悦楽は喉元をせり上がって嬌声と化した。

「ア、アアッ!いやだ、やめろ…っやめてくれぇ!」

(私は何を言っている。なぜ一方的な暴力によって快感を得る。わからない。わからない。)

未知なる快感に対する恐怖感にぼろぼろと涙腺が決壊したかのように涙が溢れる。
いくら薬のせいだと言えど、あまりに卑しい己の肉体の有様に理解が追いつかなかった。
上擦った声で必死に懇願するも、切嗣は不気味なほどの笑みを崩さず容赦なく足を動かし続けるだけだ。
滲んだ視界で蠢く革靴に、踏み潰されているのは己の男としての尊厳なのだと更に涙が溢れた。

「ふふ、泣いちゃった?かわいいとこもあるじゃないか。」
「ゆ、るさん…このような…ぅ、ヒグッ…!」
「心外だなあ。むしろ感謝してほしいくらいだよ?キミを清廉な信徒って檻から解き放ってあげてるんだからさ。」
「あ、あっ…な、にを…。」

会話に集中させる為か、僅かに弱まった刺激にぼんやりと顔を上げながら朗々と紡がれる甘い声に耳を傾ける。

(私がこれまで第一としてきた志をこの男はなんと言った?"檻"だと…?私がそれを手に入れることが出来ずにどれだけもがき苦しんでいるかも知らずに…!)

「キミは清く正しくあろうと心掛けているみたいだけどね…僕が思うに、それは逆効果だ。」
「…?」
「つまりね、」

こてんと子供のように傾けられた貌は無邪気な光を湛えている。
しかし、その表情にどこか邪悪なものを感じて己の中の警鐘が鳴り響く。

(聞いてはいけない。きっとこの男の言葉は私が知るべきではないものだ。…いや。それは本当に警鐘か?祝福の鐘ではないと、言い切れるのか?)

自分の中で得体のしれない何かがむくむくと頭をもたげるのを感じる。
最早快楽に蕩けた瞳は切嗣の薄い唇に釘付けになっていた。
僅かに口角の上がった口元が、ゆっくりと開かれる。

「キミの望む幸福は、穢れの中にこそあるんじゃないかってことさ。」

その言葉の意味を捉える前に、踏みにじるような動きから細かく擦りあげる動きに変じた切嗣の足に翻弄され、脳内が快楽一色に染め上げられた。
蕩ける脳は思考を諦め、自分の中で何かが弾けるのを感じると同時、意識は白く塗り潰された。
切嗣の唇から零れ落ちた吸殻が、なぜか濡れた音を立てて自分の身体の中心に落ちたのを聞いた気がした。







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