夢の中にて決別(BLEACH)
※あるこちゃんの誕生祝いに書いたギンイヅ2009
※あるこちゃんお誕生日おめでとう!!
夢を、見る。夢を見るのだ。毎晩毎晩、おなじ、夢を。
夢の世界であのひとは、いつものように薄く笑んで僕を呼ぶ。(・・・イヅル、)そこで僕はいつも目を覚ます。(・・・イヅル、)微笑む口唇、弧を描く瞳、困ったように下がる眉。夢の中、あのひとはあのころのままの姿で僕を見る。僕もあのころと同じにあのひとを見詰める。その笑みを、姿を、堪忍、という声を、あのころと同じように。(ああ、酷い夢だ・・・)
あのころ、ただ淡々と過ぎてゆく日常の中で、僕はあのひとのことをしっているつもりでいた。わかっていると、そう思っていた。「ちょっと、ちゃんと仕事してくださいよ」「堪忍なァー後でするさかい」「ちょっ後っていつですか!あっちょっ・・・!」「ほなまた後で」「隊長ッ!」そんなくだらない、みじかいやりとりの繰り返しの中で、だけど僕は、彼のことを少しはしれていると思っていた。自分は彼のことを理解出来ていると、そう信じていた。そんな、くだらないみじかいやりとりの中で。そして、彼もすこしは自分のことを見てくれているのだと、信頼してくれているのだと、そう、思っていた。いったい、僕は今まで何を見ていたのだろう。あのひとのことをしっているなんて、わかっていたなんて、今となってはとても、口に出すことすら出来ない。
あのひとはいつも、気付かぬうちにすうといなくなる、猫のようなひとだった。そしてまた気付かぬうちにすうと戻ってくるのだ。僕はいつも帰ってくるならそれでいいと、最終的にここに戻ってくるならそれでいいと、気付かぬふりで目をそらしてきたのだ。帰ってくる彼はいつも、猫の瞳をして、夜の匂いを纏っていた。
どうして気付かなかったのだろう。あのひとがいつだって固く固く自分を拒否していたこと。あのひとはいろんな方法で自分にそれを教えようとしてくれていたのに。いつだって日向の匂いをさせていた彼が、夜の匂いを纏う、その理由。僕が目を逸らしていた事実。彼の手が最後の最後に僕に向けて延ばされたとき、僕はどうすべきだったのか。彼の一番近くにいるつもりで、誰よりも彼を理解しようとしなかった僕は。(・・・市丸隊長)今となってはもうどうすることも出来ない。彼の声を聞くことはない。あの笑みも向けられることはない。彼はもうここにいないのだ。「市丸隊長・・・ッ」僕がここで流す涙も、けして届くことはない。
夢を、見る。毎晩毎晩、おなじ、夢を。夢の中であのひとは薄く笑んで僕を見る。(・・・イヅル、)(イヅル、)(イヅルイヅルイヅル、)(・・・イヅル、)ああ。「酷い、夢だ・・・ッ」消えてしまえばいい。あのころに戻りたいと願う自分など。
今夜もあのひとのいたこの隊舎で、僕はひとり奥歯を噛み締める。あのひとのいたはずのこの場所には、あのひとの匂いなどひとつも残ってはいない。日向も夜も、彼の本当ではなかった。彼は行ってしまった。自分を置いて。(さようなら、市丸隊長)次に会うときは本当の決別。
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