140字詰め9
※プロシュート×リゾット
雨が降っている。こういう夜はいつもアイツは浮かない顔でぼんやりとしている。隠そうとしているようだがオレにはわかる。その不器用さが煩わしくて、「リゾット」と声をかけてキスをするとガツッと互いの前歯が当たった。イテッとおもわず声をあげるとふっとリゾットが笑った。そうだ、てめーはいつでもそうやって笑ってなきゃあいけない。オレはそんな気持ちを込めて軽くリゾットの脛を蹴った。
※ギアッチョ×メローネ
はさみでじょき、じょき、と布を切っていく、その音だけが部屋に響いている。この男はいつもいろんな店を覗いては服を買い、大量のそれを破壊して新たに構築していく、それをオレはいつもなんとなく眺めている。スタンドにも現れているがコイツはきっと作ることに長けているんだ。アーティストとして活躍するメローネを思い浮かべようとしたがうまく想像できなかった。オレにとっちゃここにいるメローネがすべてだし他のどんな姿も想像できない。けれどなぜだかコイツがここにいることが当たり前におもえる今が特別におもえてオレはじょきん、という布の切られる音に耳を澄ませた。
※リゾット×プロシュート
ひどく明るい夜、夜陰に隠れるようにしてオレたちは唇を重ね合わせた。故郷の海を思わせるような青い瞳にオレの顔が映っていた。男は赤色に潤んだ唇のままにやりと笑ってみせた。その顔が未だに脳裏から離れない。バラバラになった彼の体を見ながらオレはあの日の彼の微笑を思い出していた。
※リゾット×プロシュート
思い出すのはあの声、熱を持ったあの温度、お互いの姿さえ見えない暗闇で彼の声だけが時折聞こえて、それがひどく印象に残っている。プロシュートという人間を想いだすとき真っ先に浮かぶのはその姿ではなくすこし枯れた低い声だ。あの声にもう一度、一度きりでいい、名前を呼ばれたい。
※ギアッチョ×メローネ
「たとえばの話、たとえばの話だぜ」そう言ってメローネはフォークをこちらに向けた。「たとえばオレが宇宙人だったとして、ギアッチョはオレを愛した?」そう問われた彼は少し喰い気味に「アホか」と言った。「宇宙人だろうが魚だろうがお前はお前だろうが」メローネはそれを聞いて満足気に微笑んだ。
※リゾット×プロシュート
オレたちに残された時間はどれほどのものだろう。イルーゾォからの連絡が途絶えた。きっと彼はもう戻らないだろう。隣に座っていたプロシュートがぽつりと「次はオレが行く」と呟いた。行くなとは言えなかった。「ああ」と頷いて軽くキスをした。彼がまた隣に座り煙をくゆらす日が来る
よう祈りながら。
※リゾット×プロシュート
恋はしないと決めていた。暗闇に暮らす自分に恋などというものが似合うとはこれっぽちもおもえなかったし、恋は死を呼ぶものだという確信があった。そう伝えると彼は「じゃあなぜオレにキスをする?」と問うた。「…なぜだろう」と答えると彼は「オレともう一度、恋をしようぜ」と囁いて綺麗に笑った。
※リゾット×プロシュート
寒さの抜け切らない春のはじめのことだ。いつものようにふたり、人の後をつけていた。雨が体を刺すように冷たい。すこし前を歩くプロシュートが振り返り、怪訝におもったオレに何かを言って、笑った。声は土砂降りの雨に消された。だがたしかにその笑みは「おまえのために死んでもいい」と言っていた。その笑みを見なければよかった、そうおもった。さしていた蝙蝠傘に隠れるようにしてオレは顔を隠した。オレはきっといつか彼の覚悟に、きもちに、甘える日が来るだろう。そしてそれを彼は簡単に受け入れる。見なければよかった、 彼が死んだという報告を電話越しに聞きながらオレはあの冷たい雨の中でやけに輝いて見えた彼の笑顔をおもった。
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