かのんちゃんから


苦くて甘い番外編書いていただきました!!
※かのんちゃんありがとう!!!!!!!
※かのんちゃんのピクシブIDはこちらです【4394382】




Trap and bittersweet




いつからだろうな。
コイツと仕事を片した後に、一服して帰る癖がついちまったのは。


スタンドの相性だろう、大人数消す仕事には二人で出向く事が多かった。
俺が煙を充満させ、大半を仕留める。
うまく煙から逃れられたとしても、次の瞬間にはカミソリを吐いて倒れている。


「ハン、今日も予定より随分とまぁ早く片付いたもんだな」
標的の死亡を確認すべく錆び付いたドアを開け裏から入れば、
かなり老朽化した倉庫らしく踏み出すたびにミシリと床が鳴る

「・・・あぁ」

短い返事と共に、ステルスを解いたリゾットの姿が廃材の積まれた壁際に現れた。
ひと仕事終えたばかりだというのに、呼吸一つ乱した様子もない。

リゾットの仕事はいつだってスマートだ。
初めて組んだときにはその見た目からは想像できないほど綿密な作戦、
敵と対峙した際の見事なまでの戦闘技術にひどく驚かされたものだった。

あの体格じゃあもっと、こう、筋力にものを言わすのかと思えば
人は見かけによらねぇよな。本人に言ったらアイツは怒るだろうか。
それならちょっと見てみたい気もするがメタリカの餌食になるのは御免だ。
近頃は共に任務に就く機会も増え、それに連れて様々なことを知った。



「15、16・・っとこれで全員だな」
任務遂行を確認しつつ、流れるような動作でタバコに火をつけ
手頃な廃材に腰掛け、足を組む。


アイツはまだ壁際に佇んでいる。

最近気づいたことの一つがこれだ。


標的を消していく時は、まるで機械的と言っても過言じゃないほどに
確実に仕留めていく。
だが任務が終わると、こうしてぼんやりとしているときがある。

他のメンバーにそれとなく聞いてみたが
しかもそれは俺と任務に出た時だけらしい。
暗殺者として仕事現場でのんびりってわけにはいかねぇだろ。

疲れてンなら、とっとと帰るぞと
半ば強引に引きずって帰ろうとしたこともあったが、
「何故」と真顔で返されたのでさらにわけがわからねぇ。


死体に囲まれた場所なんざ、長居は無用。引き上げるのが正解なんだろうが・・・
その時、声をかけるのは何だか無粋な気がして、な

放っておけば思い出したかのように「戻るか」と、いつもアイツは言うから。


だから俺はその間、こうして時間を潰すようになったんだろうなぁと
紫煙を漂わせながら、一服することに都合のいい理由をつけることにした。

長くなってきた灰を払いながら
今日もそろそろか、と視線を戻したところで目が合った
それがあまりにも何か言いたげに視線を寄越すもんだから


「おまえもいるか?」
とタバコを差し出せば曖昧な返事が帰ってくる。

「どうかしたか?」

いつもなら「リゾットリゾットリゾットよぉ、言いてえことがあンならはっきり言え」と
思いっきり突っかかるところだが、試しに聞いてみた。

「あ・・・いや、そういうわけでは」
歯切れが悪ぃな
「じゃあなんだよ?」
それともタバコが気に入らねぇとか?
返事は曖昧な癖に、視線は外さない意味がわからねぇ

「綺麗だなとおもって」
「なにが」

「おまえが」


「・・・熱でもあんのか?」
そう返すのが精一杯だった。俺が、なんだって・・・?
こっちの気など知りもせずに額に手を当てて、キョトンと熱はないとか言ってやがる。

「ならいいけどよ」
全然良くない。全くを持って良くない。とりあえずは深呼吸だ。
煙をゆっくりと吐き出し、先ほどの言動を検討する。

・・スタンド攻撃を受けているわけではなさそうだしな、俺を綺麗とか言ってしまうほど、疲弊しているに違いない。
それに綺麗なんて言葉、言われ慣れてる俺が動揺しているなんて

俺も疲れているのかもしれねぇな。そうだ、俺は疲れているんだ。


「よう」

視線を戻し声をかけると、特徴的な瞳が不思議そうに見つめ返してくる。
さも何か変なことを言っただろうか、とも言わんばかりに。

「キスくらいなら受け付けてやってもいいぜ」
余裕たっぷりに言ってみる。

「・・・何を言ってるんだ」

それは俺が聞きたい。

「俺を綺麗だとか言い出すくらいなんだ、どうぜそっちがご無沙汰なんだろ?
キスくらいならしてやってもいいぜっつってんだ」
皮肉を混ぜて言い放ち、足を組替える。

「いや、俺はべつにそういうつもりで言ったわけじゃ・・・」

じゃあ何のつもりだったんだ、と問いただすのは止めた。
「好意はありがたく受け取っとくモンだぜ?」


きっと悪い顔してンだろうなぁと思いながら立ち上がり距離を詰め
リゾットの頬に手を添える。
瞳が近い、吐息が熱い。

「目ェ瞑れよ」吸い込まれそうになるから。


触れるか、触れないかのキスを落とした。


・・・拒絶は、されなかった。


頬に当てていた手を顎に移し、上を向かせ二度目のキスを。
口の端を舐め取れば、驚いたように少し後ろへ下がったが逃がすはずもなく
そのまま深いものへと変わり、お互いの呼吸が上がってきたところで
やっと唇を解放した。

え、って顔してんじゃあねぇよ。つい口元が緩んじまったじゃねぇか。

いいんだ、これで終わり。

俺もお前も今日は疲れていたんだ。


表情を悟られるのが照れくさくなって、「続きはアジトで、なぁ?」なんて軽口を叩いて
踵を返し、裏口へと向かう。

しかし裏口を開けたところで、ちっともリゾットが来ねぇから
呼んでみたらアイツ固まってやがる。腰でも抜けたか、まさかな。

「おいおいおいおいおい」
顔が緩みそうになるのを必死で抑えて、

真面目そうな表情を作り、カツカツ靴を鳴らしながら戻る。
途中何か蹴っ飛ばした気もしたが、俺の視線は壁際の白と黒の男だけを追っていた。


「リゾット。おまえ女相手にもそんなんじゃあ笑われちまうぜ?」なんてため息混じりに言ったら

「女とする予定はない」と真面目に返された。
「じゃあ野郎だ。野郎相手にしたってこんなキスくらいでびびっちまってどうすんだよ。そんなマグロ以下、誰にも相手にしてもらえないぜ?」


自分で言っておきながら胸糞悪い・・リゾットが他の誰か、と?
眉間に皺が寄っているのが分かる。先程までの高揚した気分が薄れていく気がした。

思考が曇る。


「おまえは、」
「え?」
俯きながら、ゆっくりと紡ぎ出された落ち着いた声に、意識をこちらに戻す。

「おまえも相手にはしてくれないか」
「オレ?」
「ああ」

黒目がちな瞳が、俺だけを映しているのが見えた。目が離せなくなる。
それよりも今コイツなんて言った?

「オレなんかそもそも対象外だろ」
「そうじゃないと言ったら?」


「うそ、だろ・・・」

口をついて出たのはそんなありふれた言葉で、それからは言葉が止まらなかった。

思春期のガキみたいな質問を繰り返し、

最後に「コイビトになりたい?」と消えるような声で呟けば
「・・・あぁ」と、いつもの声で返ってきて。

形勢逆転、なのか。
俺は今、掌で顔を覆っている。
自分でもどんな表情になっちまってるかわからねぇの、に

「プロシュート」一歩近づいたのが分かった。
「もう一度キスをしていいか」
返す言葉が見つからなくて、手を下ろした。お前にはお手上げだってな。

手を取られ、慈しむような優しいキス。
唇を離すと「・・・苦いな」と少しはにかんだような笑みを浮かべた。

「愛してる」
漆黒な瞳に窓からの光が反射し、鏡のようになっている。
その中に俺がいる。
あぁ、完全に捕らわれちまったな。

一つ瞬きをし、俺からも見つめ返す。きっと俺の瞳の中にもリゾットがいる。

それから二人して笑い、今度は並んで裏口に向かう。

真上にあった太陽はだいぶ傾き始めていて、気づけば黄昏時。
西の空に残った赤い色がやけに綺麗に見えて
無意識に隣を見上げると、一番好きな赤を見つけた。


帰ったら教えてやるのもいいかもしれねぇな。
俺が任務の後にタバコを吸うのはお前と一緒の時だけだって。
そう言ったらコイツは、どんな顔をするんだろうな。



END









back
「#甘甘」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -