ハミングバード
※YUKIの同名曲をイメージしたものです
曖昧でそれでいて表情に無理はなくて、愛情か、友情か、まるでπのように割り切れない、13回目のファイナルアンサー、もしこれが恋ならいいのに、そう願っても君との距離はまるで変わらず心地好いまま、飛行機雲を追いかけていた。鳥が飛んでいくのが見える。ぴるるる、と耳に軽やかな唄声が聴こえる。あの鳥のようにさすらえればいい、君のためにうたえればいい。君のことを考えているよと伝えられるように。
君と出会ったあのころを思い出す、お互いまだ若くて、ぺちゃんこの鞄に夢だけ詰めて走ってた。自転車を二人乗りして坂道を下って、向こうに見える青い海に、頬を撫でる潮風に胸を膨らませていた。何度君にきもちを伝えようとおもっただろう。君がぼくを見て笑うたびぼくはどこへも行けないつらさを感じた。きっと君以外の人を愛せはしない、そうおもった。けれど君はいつも笑ってこう言うんだ、「ずっと変わらず友達でいようね」それがぼくをどれだけ悩ませたか君はしらない。擦り切れるようなきもちで眠れぬ夜を過ごして、君のことさえ忘れられたらきっとぼくはもっと穏やかなきもちになれる。なのに君に会えるとうれしくてたのしくて、このまま時が止まれば、なんてバカなこと考えてしまうくらい、君がすべてで、別れてしまったらそのあとは「あんなこと言わなければよかった」「今日のぼくはどう見えただろう」ってそればっかりで泣きたくなって、勘違いでもいいから君がすこしでもぼくのことを好きでいてくれたら、なんて、抱きしめてくれたらって、いつも。そう、いつも。いつも、君のことばかり考えていた。
1度、君はいたづらにキスをくれた。やわらかな感触はぼくの胸を鷲掴んで離さなくて、君はそっとふれたそのくちびるで「君が女だったらよかったな」なんて言ったんだ。ぼくは涙がこぼれないように我慢するのに必死で、でも気づかれないようにやさしく笑んで「そうだね」と言った。それはまぎれもなく本心で、ああ、君が望むようなやさしくて可愛い女の子だったなら!そしたらぼくはこんなふうに自分の体を、生まれを、責めなくったってよかった。もっと自分に自信を持って、自分を愛せただろう。その日ぼくは生まれてはじめて煙草を吸った。揺らぐ白い煙を見ながら、ゆらゆらと、この煙のようにくゆっていつしか風になれたらと願った。あの潮風のように君の頬を撫でたかった。君の影に重なるように生きていきたかった。ぼくにはできない、だれかになりたかった。
君がぼくのきもちに気づいてしまったのはいつだったんだろう。君はぼくから距離をとるようになった。けれど互いに代わりがいないのはわかりきっていた。ぼくらはバイバイもできず、けれど愛しあうこともできずにただ二人して途方に暮れた。君がごめん、と言って夜の公園で泣きながらぼくに謝った日のことをぼくはとてもよく覚えている。ぼくは「気にしないで」と言えないで、ただ君とおんなじようにひたすら泣いた。そうして大の大人には似つかわしくないくらい泣き腫らして、ブランコに座って、ぎい、ぎい、と漕ぎながら、空に浮かぶ大きな月を眺めた。月明かりはひどくやさしくぼくらを照らしていて、赤く染まった目をいたわるようにずっとぼくらを見つめていた。
「ねえ」君が言った。
「オレたち一緒になれないならさ、せめて死ぬときは一緒に死のうぜ」
「ぼくとでいいの」
「君とじゃなきゃいやだよ」
そうして君は微笑んだ。ぼくも微笑んで、僕らは2度目のキスをした。涙で濡れてしょっぱいその味はけれどぼくをしあわせへと誘った。ぼくらは今、はじめて同じ夢を見た。そのしあわせが夜の暗闇さえ取り除くようにくちびるからそっと二人の胸に広がっていた。
back