140字詰め6
※リゾット×プロシュート
流れてゆく水を見ていた。蛇口から溢れるそれは冷たくもなければ温かくもない。まるでオレとアイツの関係のようだ。いつまでも流れ続けるようでいて、いつか必ず当たり前のように終わる。そう、蛇口を捻るように簡単に。それがどちらかの死であればいいと俺は願い、蛇口を捻って水を止めた。
※プロシュート×リゾット
ソルベとジェラートが見るも無惨な姿になって帰ってきた日、リゾットは無言で背中を向け、「処分しろ」とたった一言呟いた。そんな彼を冷酷だと非難する人間はここにはいない。俺だってそうだ。冷たいと思うか、そう問いかけた彼にいや、と答えて、珍しく弱々しげに額を俺の肩に預ける彼の背中を抱いた。窓ガラス越しに見える空は透き通るような青で、なぜだか少し涙が零れた。
※ジョルノ×アバッキオ
はじめてキスをしたとき、その指先は震えていた。年齢のわりに大人びた少年がはじめて見せた年相応の姿に心が動かなかったと言えば嘘になる。こんなガキべつに好きじゃない、これから先だって好きになんてならないだろう。けれど。「どうかしましたか?」そう言って微笑んだ火照った頬は、いつもよりすこし、可愛く見えた。
※プッチとDIO
真っ暗な海に満天の星が輝いている。彼はこちらを振り返らないまま、しっているか、僕に問いかけた。何をだい、と返すと「星というのは太陽の光を浴びて輝いているらしい」と言う。そして、不思議なものだな、太陽に当たれなくなってはじめてあの光を懐かしく想う、と彼はすこし淋しげに言った。彼の瞳は星を映して太陽のように眩しく輝いていた。
※DIO
オレの毎日に夜しかなくなってどれくらいの時が流れただろう。いっさいの明かりを遮断して、暗闇の中でオレは体を抱いて震えている。頂点に上り詰める代償に置いてきた太陽と青春を思い返してはあの日々には戻れないのだと痛感する。やさしい友の手が背中にふれた。そのぬくもりに不意に涙がこぼれた。
※露伴×仗助
夜明けの透き通るような光が少年の顔を照らしている。昼間の強い光の下ではいつも精悍な表情を映し出すのに、今、布団にくるまって長い睫毛をときおり震わせている顔はひどく幼く見えた。指先を伸ばしてその髪をそっとかきあげると、少年はちいさな声で僕の名を呼んだ。
※ディエゴ→ジョニィ
その姿はまるで馬に乗るために生まれてきたようだった。瞳はいつも揺るぎなく、前だけを見ていた。なにかに追い立てられるように走るその姿にオレは惹かれていった。ある日、厩舎に戻るとジョニィが自分の馬の前にいた。その瞳からは涙がこぼれていた。どうしたのか聞こうと近づくとバッと振り向いた彼は「だれにも言うなよ!」と言ってまたそのまますすり泣きだした。伸ばした指先はその涙を拭うことはできなかった。ただ、ジョニィのその姿を見ながらオレは、この少年のような男の涙と絶望をもっと見たいと願い、伸ばした指先をぎゅっと握った。
※スージーQ→ジョセフ
あのとき邸から飛び出して大きく手を振ったあなたの背中はどんどんちいさくなってとてもちいさく遠く見えた。私のちっぽけな両手ではあなたが抱えようとしているすべてはきっと抱えられない。一人帰ってきたあなたの横顔はやっぱり遠く感じられて、けれど今度は、あなたのその広い背を私は傍で見続けることができる。これから先はきっと、あなたの隣であなたを愛して、ずっとずっと。
※仗助と億泰
「あー補習とかダリぃなあ!」「授業サボったからなあ」そう返して上を見上げる。柿の木に登った億泰は色づき始めた柿のひとつをもぎってかじった。渋ッ!と言ってしかめた顔はいつもどおりのアホ面で、その向こうに広がる空は突き抜けるように青く、オレたちに2年目の秋の訪れをしらせていた。
※ディアボロ×ポルナレフ
その男はたった1人でボス親衛隊と呼ばれる連中のほとんどを倒し、オレの元へとやってきた。奴の動きは洗練されており美しいとさえ思える程だった。我がキングクリムゾンの前に倒れた男の手足を切って捨てようと近づくと男は負傷した体をムリヤリ起こしてオレを見詰め「かわいそうな男だな」と呟いた。かわいそう。かわいそうな男だ。その言葉が、あれから何年経ってもときおりオレの心をえぐる。ハッと息を吐くように笑うとしらず涙がこぼれ落ちた。裸の体を抱いて1人眠る部屋にはオレのほか誰もいない。時計の音だけがむなしく響いていた。
※承太郎とポルナレフ
窓辺に立って雨に曇る通りを眺めていた。「承太郎」そんな顔すんなよ、そう言って笑ってみせた男の笑みがあんまりにも泣いているようだったから、オレは何も言えなくなって、ただ「ああ」と呻いた。亡くなった奴らに会うことはもうない。透明な窓ガラスについた水滴がすうと流れていった。
※プロシュートとリゾット
約束はしない主義だ。今日死ぬともしれない身でするそれは儚く虚しいだけだ。けれど昨日、ソファの上で窓から見える空を見上げて、死んでいった仲間たちのことをぼんやり考えていたら彼がそっと小指をこちらへ突き出し「おまえの誕生日が来たら、ケーキに蝋燭を灯してみんなで祝おう」と言った。オレはしばらくその指を見つめたあと静かに喉を鳴らして笑って自分の小指を絡め「ああ」と呟いた。
※リゾット×プロシュート
※一巡後
何度も何度も夢に見る。いとこが殺されたこと、はじめて人を殺した瞬間、ベッドに広がる金の髪、大きな目を細めて笑ったその顔、冷たくなった頬、開かない瞳。そこまで見たところでいつも目が覚める。目を覚ますといつも彼がオレを覗き込んでいて、大丈夫かよ、と不安げに言う。オレはプロシュートがそうしてオレを見ている、そのことにひどく安心する。腕を伸ばす。その体を抱く。なんだよ、朝からお盛んだな、と憎まれ口を叩く彼は温かく、夢の中の冷たい感触とはまるで違う。そのことが嬉しくてたまらなくて涙を流すと彼は忙しいなお前、と言いながらオレの体をぎゅっと抱き締めた。
※ディオとジョナサン
目をこじ開けて天井を見上げたままベッドに転がっていた。眩しい朝だ。今日がまた始まる。ここへ来てどれくらいの時間が経っただろう。自分が馴染んでいくのがこわい。あの同い年の少年に絆されていくのがこわい。早く、早く、金だけかっぱらってこの家を出よう。朝だよ、そう言うやわらかな彼の声をとおく聞きながら俺はシーツを強く掴みまた心に誓った。
※ギアッチョ×メローネ
メローネは体を合わせているとき、いつもひどく冷たい目をする。その瞳の色は彼が殺しをするときと同じ色だ。オレはその何かを憎んでいるような瞳を見つめながらただ腰を振る。たぶんこんなことには意味なんてない。けれど彼はこれを望むのだ。こうして欲しいとねだるのだ。彼の孤独を埋められる何かになれればいいのにとちいさく頭の端でおもいながらオレは、彼が果てる瞬間をぼんやりと見ていた。
back