ゆれる影(花京院×ポルナレフ)
頬の上でゆれる影を見ていた。その線はおぼつかない儚さで、まるで彼自身のようだった。彼はいつも足りないものを探していた。失くしてしまったなにかを探していた。それはゆれる蜃気楼のように手には掴めないものだというのに。そのことを、彼自身がもっとも深く理解しているはずなのに。僕にはわからない。僕には失くすものなどない。なにも手にしたことがないからだ。ただひとつ言えることは、僕は生まれてはじめて、なにかを手に入れたいと願っているということだ。この、なにもかもなくしてきた男を、この手に。
「ポルナレフ、」
「なんだよ?花京院?ションベンならついてってやらないぜ」
瞬きをしたその瞬間、大きく頬の上の影が揺れる。ああ、僕はこの影を掴めるだろうか。
「いや、そろそろ日が落ちるし、眠ったほうがいいんじゃないかとおもって」
「んな心配すんなよ、我が国の英雄ナポレオンは睡眠時間は3時間で足りるって言ってたんだぜ〜」
「ポルナレフはナポレオンじゃないだろ」
落ちゆく夕日が笑う彼の睫毛の影を濃くしていく。今すぐ抱き締めて愛してると囁きたい。けれど慣れない僕がそうできるのはきっとこの旅が終わってからだ。この旅が終わったならば、きっと。
「おやすみ、ポルナレフ」
「おう、おやすみ」
僕は最後にもう一度揺れるその影を見つめて、旅の終わりに想いを馳せて、瞼を閉じた。
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