嘘と青空(銀時×高杉)




いつものように廊下を歩く。自分の部屋からその部屋まではもう通い慣れたもので、廊下の鳴る音さえ耳に心地よい。引き戸を引いて部屋に足を一歩引き入れると向こうを向いていた背中がゆっくりとこちらを振り返って、やわらかな銀髪パーマの向こうの眠そうな瞳が俺を見た。赤い唇が「またかよ」と動く。気づかぬうちに上がっている口角をしらぬふりをして「銀時ィ」といつものように甘えた声を出してみる。何を考えているのかよくわからない幼馴染はひとつため息を吐いて身を起こした。来い、ということらしい。ますます口角が上がる。すたすたと歩いて銀時のところまで行ってその体に跨る。てのひらで頬を撫でると手首を掴まれた。ちいさく抱き締められる。そして男は俺の体を離すと「ほら、いい子だから寝ろ」と低い声でささやいてぽんぽん、と自分の隣の敷布団を叩いた。
「てめーそうやっていっつもガキ扱いしやがって…俺が何を望んでるかくらいしってんだろうが」
「いやだよおまえと寝ると熊と戯れてきたの?ってくらい全身傷だらけになるもん。戦ならともかくセックスでぼろぼろになるのは俺はいやです。おとなしく寝てください」
「だが断る」
「だぁーもうなんでおまえはそんなに俺と寝たいの!なんなの発情期なの!!」
「そういうおまえは万年発情期だろ。何の問題もねえだろうが」
「問題あります。まずおまえにはおっぱいがありません。オーケー?」
「その代わり感度はいいぜ」
「何の自慢?!なにそのドヤ顔!!べつにふんぞり返るようなところじゃないからね!」
「いいから黙って抱けよ銀時」
そう言ってムリヤリ押し倒すと男は黙った。相変わらず眠そうな瞳が俺を見詰めている。ぞくぞくする。俺はきっと獲物を捕食するときのような瞳をしているだろう。黙ったままの銀時の寝間着をはだけさせ噛み付く。「イテッ」と頭上から声がしたが気にしない。首筋から鎖骨、胸、腹、と順繰りに下方に向かって噛み付いては舐め上げて、を繰り返す。めんどくさいので浴衣を全部脱がして下着の中に手を入れ扱く。ちゃんと反応しているそれを自分の尻にあてた。そこで「ちょっ待っ、ストップストップ」と切羽詰った声が聞こえる。面倒だな、と思いながら目だけでなんだよと聞くと、おまえさあ、女の子とヤれよ、モテるんだし?などと今更すぎることを言われた。おまえじゃなきゃダメなことくらいおまえだってしってるだろ。あほか。そうおもってそのまま続ける。自分の呼吸が荒くなっていくのを感じる。内臓が掻き回される感覚。脳内が白くなっていく。そうだよ銀時、俺はめちゃくちゃになりたいんだ。そこらの女じゃそうはなれない。おまえじゃなきゃ。

熱い吐息のなかで銀時が何か言った気がした。汗ばんだ手で髪をかきあげられる。はあ、と息を吐くと銀時は「晋助」と俺の名前を呼んだ。下の名で呼ばれることはめずらしいので呼吸を止めて次の言葉を待つ。
「晋助、俺、おまえとずっと一緒にいるから」
だから不安がるなよ。そう言って果てた銀時はしばらく肩で呼吸をしたあと俺のことを抱き締めてキスをした。そうして「もう寝ろ」と言った。
眠りについた銀時の規則正しい寝息を聞きながら俺はうそつき、とただひとつのことをおもっていた。銀時はうそつきだ。本当はおまえは3年もしたらいなくなってる、ずっと一緒だなんてありえない、おまえは俺の傍に居続けたりしない。おまえは俺が怯えていることに気づいてる、だからそんなことを言うんだろう。大間違いだ。俺はそんな言葉が欲しいんじゃない。ただ刹那でもいい、おまえの熱が欲しい。時折ぎらりときらめくその瞳に俺がまだ映っているのを見て安心したい、ただそれだけなんだ。なにもかも失ってきた。きっとこれからも失い続けるだろう。それはおまえも含めてだ。だからこそおまえと交ざり合いたい、吐息を交わしたい。
俺が瞳も先生も失い、おまえも失ってひとりになるのに時間はかからなかった。ひとり煙管をくゆらせながら「ほらな」と呟く。ほら、おまえはずっと一緒になんていないじゃないか。俺は今おまえの居場所すらしらずにひとりふらふらとしている、まるで野良猫みたいに。ふう、と吐いた煙が舞い上がった空はひどく晴れ渡り青々として、涙ひとつ流せない俺のことをまるで嘲笑うかのように頭上に広がっていた。







back
「#幼馴染」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -