至高の薔薇を(Fate/Zero)
※ギルガメッシュと時臣と綺礼
私は今ひどく奇怪なものを見ている。
というか、見せられている。見せつけられている。いったいこれはなんだ。
そもそもは、師のバスタイムの用意をしていたところから始まった。以前は奥方が支度を整えていたのだが、聖杯戦争が始まって以来、自分の身近にいるのは危険だと師は自らの妻を諭し、彼女の役割を私に振った。この程度のこと別段なんということはないし、私も当たり前のようにそれを承諾した。猫足のバスタブに適温の湯を注ぐ。優雅優雅と修行中にも常に口にするだけあって、さすがバスタブまで優雅だ、と変なところに感心してしまう。我が師、遠坂時臣は常に優雅たれ、が口癖でありモットーであり、それを崩したことは私生活でもなかった。どうやら有言実行するお方でもあるらしい。すばらしいことだ。そう心の中でひとり呟いていた。なのに。なのに、だ。
「英雄王!今日は貴殿もご一緒に如何です?」
我が師はバスタブに浮かべ終わった薔薇の花弁をひとひら指先に、もう片方の指先で余った薔薇を持ちそれを股間部にあてがいながら宙に向かい宣言するように言った。それはひどくシュールな絵面だった。霊体化していたギルガメッシュはその声に姿を現し、「それは余に、貴様と一緒に風呂に入れと言っているのか?時臣よ」と無駄にも思えるほど偉そうに言った。それに対し我が師は「もちろんです、英雄王よ」とこちらも胸を張って言った。いやそこべつに胸を張るとこじゃないと思うんだけど、と声には出さずにふたりのやりとりを眺めながら思う。
「時臣、それが本心ならば貴様は大層な変態だぞ」
「なんと言われようと結構です我が英雄王よ。さあ、今日こそ一緒に!」
今日こそって。ずっと思ってたのかよ。きもちわるいぞ、我が師よ。
フ、フハ、フハハハハハハハハハハハ!!とギルガメッシュの高笑いが広いバスルームに響いた。
「おもしろい!おもしろいぞ時臣。こちらの世界に出てきて以来、退屈で退屈で仕様がなかったが、久々に笑わせてもらったわ。なるほど。余のマスターはとんだ変態ということだな。フフフフ、よかろう!このギルガメッシュが、貴様と湯を共にしてやろう!」
そして今、私の目の前では、薔薇風呂の中でぱしゃぱしゃと水音をあげながらいちゃつくギルガメッシュと我が師、というこの世の終わりかと思えるような悪夢が繰り広げられている。さっきから延々、我が師が、「あっ…やめっ…!英雄王…!」などと繰言を述べていて、「アーッハッハッハッハ!時臣ィ!こーちょこちょこちょこちょこちょ!」などと彼の有名な英雄王がどこぞの男子高校生かというようなことをしている。悪夢だ。我が師がどんどん優雅ではなくなっていく。ていうか優雅さの欠片もない。普段の優雅はどこへ。そしてギルガメッシュ、おまえ本当に名のある王だったのか。そのへんの男子中高生のまちがいじゃないのか。英雄王とまちがえて聖杯が連れてきたんじゃないのか。だってとくに望みもない私が令呪とかもらっちゃったくらいだし。なんか数合わせするとか言ってたじゃん。ギルガメッシュって数合わせなんじゃねーの。力を見ていなかったらそんなふうに言いたくなるような姿だ。今私の目の前にいる若い男の姿は。ていうか私がここに立っているということをすこしは考えてくれないものか。そう思った瞬間、「あっあっ…!」などと言っていた我が師がこちらを振り返ってこう言った。
「そうだ、綺礼。おまえも一緒に入りなさい」
ぜったい厭だ。
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