深みにはまる | ナノ


深みにはまる
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※途中エロ表現有

最初はただのイライラからきた行動だった。
今思えばおれがヤツの誘いに乗った理由も、ヤツがおれに向ける気持ちも、もしかしたらおれは(無意識的に、だが)よく知っていたのかもしれない。
そしてその気持ちに気付いていながらも見ない振りをして、いい退屈しのぎとか、溜まった欲の発散などと安易に考えていたおれはきっととんでもなく浅はかだったのだ。
相手しておもしろければよし、そんな都合の良い暇潰し、そのつもりが……。

まさかこんな事になるなんて!
一体誰が予想しえただろう。



出会いは最悪……とまでもいかないが、あまりいい印象は抱かなかった。
無法地帯、シャボンディ諸島1番グローブにある人間屋(ヒューマンオークション)会場で、ニヤニヤと笑いながら、挑発的に中指を立てていたのに対して、行儀の悪ィ野郎だ、とムカついたのをよく憶えている。
しかしその後、会場の天井を文字通り突き破って現れた麦わら(とその一味)が、天竜人を殴り飛ばしてくれたおかげで(正直世界の創始者か何か知らねぇが、弱ぇくせに権威を笠に着て威張り散らす天竜人がぶっ飛ばされるのにはスカッとした)、海軍大将を呼ばれたり、海兵に囲まれ(おれが掃除してやるっつったのに、麦わらとトラファルガーのヤツも一緒になって海兵を伸していた)たりとなかなかに面倒な事態に巻き込んでくれやがった。
まあ退屈しのぎになったし、麦わらの噂通りのイカレっぷりを直接見れたから今回はよしとするが、その後が大変だった。
中でも島を逃げ回っている時に七武海のバーソロミュー・くまに遭遇した時は、後からトラファルガーのヤツが現れて、これまた不本意だが文句を互いに言いつつ共闘するはめに……全くいい思い出どころか、ろくな事がねぇ。
だが確かこの時辺りからだ、ヤツの……トラファルガーの様子が変わったのが。
ロボットのような、人造人間兵器のようなでかい“くま”をなんとか倒したのはいいが、おれは運悪くキラー達とはぐれちまった。
その代わりとでも言うべきか、おれと一緒だったのは、トラファルガーで、ヤツもシロクマや帽子被った仲間達とはぐれたみたいだった。非常事態だったから共闘はしたものの、あくまで“ひとつなぎの大秘宝(ワンピース)”を狙う因縁のライバルなのだから仲良くする必要は皆無……しかし、ヤツは未だ血を流すおれを見て(帽子の影で非常に分かりづらかったが)眉を顰めておれの腕を掴んだ。

「……んだよ」
「…ユースタス屋、その傷はそのままほっとくと失血死するぜ…おれが手当てしてやる」

自分の分のついでだと言って、ぐいぐいおれの腕を引っ張って勝手に歩き始めたから、おれは少し重たい身体を引きずりながらトラファルガーの後をついて行くしかなかった。
しばらくトラファルガーについて行けば、小さな宿屋に着いたようで、トラファルガーがカウンターに金を支払い部屋の鍵と救急箱を受け取り、ぼへっとつっ立っていたおれを再び引っ張った。
部屋に入れば、前ばかりを見ていたトラファルガーがようやくこちらに振り向いて、一言。

「上着脱いで、ベッドに座れ」

どうやら、先におれを診てくれるつもりらしい……が、一体何を企んでいやがるんだ。
まあ、文句を言ったってしょうがないので大人しく気に入りのもふっとしたコートを脱いで、ベッドに腰掛ける。

「変なマネしやがったら、容赦しねぇぞトラファルガー」

ギロリと威嚇するようにトラファルガーを睨み付けるが、ヤツはしばらくおれの顔をじっと見てから、特に文句を言うでもなく無言のままで傷の消毒を始めた。
全く何を考えているのか、さっぱり分からねぇ。

死の外科医と言う通り名はお飾りじゃないのか、くるくると手早く綺麗に巻いた包帯を固定し終えると、ぱちん、と余った部分をトラファルガーは切り落とした。

「…分かっているとは思うが、包帯はこまめに替えろよ」

それだけ言ったトラファルガーは、おもむろに着ていたパーカーを脱ぎ、ベッド(おれの隣)に腰掛けた。
今度は何だ、とぎょっとしたおれを気にも止めずパーカーを放ったヤツは、再び脱脂綿をピンセットで摘んだ。
そこで合点がいった、トラファルガーは自分のついでだとか言いながら、何故か自分より先におれを手当てしていたんだっけか。
手の届きづらいところを怪我したのか、消毒液の染み込んだ脱脂綿を持って格闘するトラファルガーを見ていたらなんかイラッとしたのでヤツの手から脱脂綿を奪ってやったら、今度はじとっと睨まれた。

「……何をする」
「うるせぇ、てめえ届いてねぇだろ…さっきの礼だ、やってやるよ」

そう言えば、大人しくおれに傷口を晒したトラファルガーに、なんとなく妙な違和感を感じながらも、乱暴に奪った脱脂綿をおれは優しく傷口に押しつけた。



(……どうしてこうなったんだ?)

内心首をかしげながらも、ずんっ、と腰を掴み押しつければ、あっ、と上がる嬌声。
そしてその声の持ち主は、ふくよかな女などではなく、脂肪も少なく筋張った痩身に立派なもみあげと顎髭を持つ隈男……そうトラファルガーだ。
確かおれには掘る掘られるといった趣味は無かったハズなんだが……そりゃあ海賊にはそういう趣味のヤツも居るが…基本的に船の上でどうしようもねぇ時にヤるパターンが多い(とおれは思っている)。
島に着けば、皆娼婦なりその辺の女なりを引っ掛けて抱く。

事の発端は……手当ての後の、夜も近いし、いくら強いと言えども手負いでの戦闘は極力避けるべきだ、とでも言いたかったのだろうトラファルガーの発言からだった気がする。

「別に出ていっても構わねぇが、ユースタス屋は目立つし、その戦闘スタイルで賞金稼ぎ屋たちと闘うと、傷が開いて縫わなくちゃならねぇから、おれはあんまりオススメはしねぇが?………ああ、溜まってるんだったら、抜くくらいの相手はしてやってもいいぜ?」

おれは医者だ。
にやり、と笑いながらそう言ったトラファルガーの目の奥に、何かがちらついていたような気がしたが、相変わらずの上から目線にイラッときて……とりあえず、(おれにはそんな趣味は断じて無いが)そのままトラファルガーのヤツを冗談半分で押し倒した事によって、今の状態になっている。
誘ったのはコイツだ、と言い聞かせて……おれは今男を抱いているのだ。

「ふっ、…ぅっあ!?」
「………」

おれが腰を動かすたびに、ムリなうつ伏せで押さえ付けられたトラファルガーは少し苦しそうな声を上げている。
コイツつらそうだな……、そう思って、おれは動きを止めて一度自身を引き抜いた。

「…ゆ、すたす屋?」

突然のおれの行動に、首をひねって名前を呼んできたトラファルガーの身体をがばりと引っ繰り返して、ヤツの中に再び自身を突き挿れ、揺さぶる。
そして相変わらずシーツを握り締めているトラファルガーの両の腕を、しっかりとおれの首に巻き付かせて、おれは再びヤツを突き上げた。



窓から差し込んでいるだろう朝日の眩しさに目を覚ませば、おれは包帯だけを巻いたまま全裸で(言っておくがおれは半裸コートでうろつくが、変態じゃない)ベッドの上に居た。
昨日の出来事が夢ならば……と、淡い期待を抱いて寝返りを打てば、やっぱりと言うか服を着てない上に一段と隈が酷く見えるトラファルガーがそこには居た。(しかもすうすうと寝息をたてながら、だ。)

(……あぁ、すっげぇスッキリしたけど、ちっと身体がダリイ…どんだけ全力でヤッたんだよおれは……)

我ながら呆れる、いくら娼婦相手でもここまではした事はない。
いくら職業柄そういう事に長けている女でも、加減をしなければ壊してしまう(大抵途中で“もうムリ”などとマジ泣きで音をあげられる)から、普段は全力でなんてまずやらねぇ。
一生懸命昨夜の事を思い返していたら、ちょいちょいおかしな点に気が付いた。
まずは、どんなに苦しくてキツい体勢でも、トラファルガーが大人しく抵抗しなかった上におれに縋ろうとしなかった事。
いくらヤツから挑発したとしても、自分が楽な体勢くらいはとろうとするだろう?
結局ヤツはおれがその手をおれの首に導くまで、ベッドのシーツを必死に握り締めていた。
自分で言うのもなんだが、次におかしいのはおれ。
イライラ混じりに押し倒したから、気なんて使わずに手酷く、乱暴に抱くハズだったのに……思い返してみたら、ヤツがつらそうだから体勢を楽なやつにとか、おれの首にトラファルガーの手を巻き付かせたりとか……無意識に、おれ優しくね?
悶々とその理由を考えていたら、トラファルガーがもぞりと身動いだ。

「……ん、…たす屋?」

寝起きでぼんやりとした様子のトラファルガーが、まだ眠いのかこしこしと目を擦りながらおれの名を呼んだ。

「…眠いなら、まだ寝てろ…んで、その酷ぇ隈を取れ」

ぽふぽふと労るように濃紺の頭を撫でれば、ん、と言いながらトラファルガーはその瞼を大人しく閉じた。
かわいいなコイツ、………っ待て待て、かわいいって何だよ。
嫌な予感がおれの胸を過った。
えてして嫌な予感と言うものは、ハズレる事がないものだ。何て事をどっかのヤツが言っていたような気がする。
まさか……、いやそんな訳が…無いとは言いきれないぞ、ちくしょうなんてこった!
だってトラファルガーだぞ、筋張っててかたいし、立派な揉み上げと顎髭だって生えてるし、何しろ敵だし男だぞ、かわいいなんて思うわけ……。
ちらり、と一縷の望みを託すようにヤツを見た。
…見て直ぐに後悔した。

(あぁああぁぁ、嘘だろ?)

この場を直ぐに去らねば、もう後戻りができない気がして…慌ててごそごそと衣服を身に付ける。
この際緩み乱れた包帯は無視だ。
最後にコートを持って部屋を出て行こうと思い、コートに手を伸ばした瞬間。

「―――シャンブルズ」
「!?」

おれが握ったのは白いシーツだった。




気がつけば、もう手遅れ
(気付かぬうちにずるずると、)
(おれの恋は落ちたのでなく、引きずり込まれたのだ)

ボツオマケ

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120510