心配 | ナノ


anxiety Side:S
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いつもどうしようもない不安に押しつぶされそうになる。
旦那には…あの人には学校が、部活があるから。
前のようにすぐ傍に居られない事で生まれた行き場のないこの焦燥が、この身を焦がし、駆り立てるのだ。



それは暑かった夏もようやく終わりを見せ、真っ赤な赤蜻蛉が赤く染まった夕空を切なさを纏わせ舞始めた頃の事だった。
遥か昔、群雄割拠の戦国乱世を強かに生き、数えることの出来ないほどの命の駆け引きを死ぬその時まで続けた怒濤の短いとも言える人生を終え、その記憶を引き継いでこの世に生まれた少年――佐助が、いつものように夕飯のお使いと言う名の買い出し任務にあたっていた時の事だった。

「ふう、これでぜんぶかな…?」

まだ少し舌ったらずな高い声が買ったものを確認し終えると、夕食の買い出し主婦で賑わう小さな商店街を、その小さな体には少々重たい夕飯のメニューを抱えよたつきながら歩く。
ちなみに今日の夕食は、秋に入ったということで、旬の秋刀魚を塩焼きにしたものにするつもりである。
よたよたと歩く少年の姿を見た主婦たちは、佐助ちゃん今日も偉いわねぇ、などとどこからかマジックのように大量に取り出した飴玉を佐助に差し出しながら声をかける。
この商店街では既に見慣れたもので、佐助は夕方の賑わう商店街ではかわいらしいちいさなアイドルとなっているのだ。

「…あれ?」

見ていてたまに不安な足取りで歩いていた佐助の少し前方に、見覚えのある後ろ姿が目についた。
薄茶色の尻尾のような長い襟足髪を秋の風になびかせながら、肩に赤いエナメルのカバンをかけ、学ランに身を包んだ高校生の青年が居た……ちなみに前方の学ランの青年は、佐助にとって前世では年下の主であり、今では一回りも年上の男である、名を真田幸村という。
前世では初心で熱血戦バカであったが、今生では熱血型体育系スポーツバカとなっている。

「だん…っ!」

部活帰りであろう幸村に声をかけようと腕に荷物を乗せたまま手を突き出した佐助だが、声をかけることはせず、おとなしく差し出した腕を引っ込める事しかできなかった。
なぜなら、幸村の隣に同じ学校の制服をきた、女が立っていたからだ。
どうやら何かを話しているらしく、遠目から見て盛り上がっているようだった。
美しいその女は熱っぽい視線を彼に向け、彼は少し頬を染めながら嬉しそうな顔をして小さな袋を持っていた。
放課後デートでもしているのか……、あの初心だった幸村様が。
前世ならば喜ばしい筈のその姿は、何故か俺の心を酷く傷めるものでしかなかった。
佐助は荷物をしっかりと持ち直し、くるりと回れ右をして駆け出した、全力で走った、息が苦しい事にも気付かないほど無心で、脇目も振らずに家へ帰った。
遠いいつかの、あの日のように、風となって地を駆けた。
後ろの人物の存在に気付かずに。




(年下のおれさまは)
不安でしょうがないのです
(旦那は美形で人望があるから)
(おれさまを置いて居なくなってしまうような気がして)
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行動が5歳児じゃない、自分で書いておきながら猿飛家の教育方針凄いな…さて女の正体、事の真相は幸村視点にて

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Remake:120430