心臓Collector | ナノ


心臓Collector
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こころとは、一体何処に在るのだろうか。
きっと誰しも一度は、その目に見えない存在の在処を考えたり、探したりした事がこれまでにあるのではないか。
“こころ”とは何処に?
頭か、胸か、腹か……はたまた人と人とが接する空間か?
話は少しばかりズレるが、ある時眠れぬ夜の暇潰しにと読んだ歴史的に古い医学の文献によると、心臓は昔から特別な臓器だった…と云われている。
事例として、ある地方の王族が死んだ時に心臓と内臓とその他の遺体とを別々の棺に納め別々の場所に埋葬するという一風どころかかなり変わった習慣が未だに残っている地域もあるという。
だからこそ迷信深い先人たちは信じていたのだろう。
こころはきっと間違いなくそこに在ると。
そう断定的に先人達の思う“こころの在処”が最後の一文に記されていた。



「…海賊の心臓を百個集める?」
「本気なんすか、船長?」

突然何を言いだすんだ、と言わんばかりに表情を歪めたペンギンと、冗談だったらいいのに…、と顔にかいてあるシャチが確認するようにこちらを見た。
それに対しておれはニヤリと笑いながら、そんな面倒な事をわざわざおれが冗談で言うと思うか?と問い返してやった。
本気に決まってんだろ、冗談なわけがねぇ…それにこういう冗談はあまり好きではない。

「…とりあえず貴方がとても心臓を集めたいと思ったのは分かりました、……それで、今度は何をするつもりなんです?」

ドナー(しかも相手の意志は関係なく強制的にである)にしては多いし、ハートの海賊団のイエローサブマリン(長期保存用の医療系物資の分)の容量を超すから何か企んでいるんだろう、と呆れたような息を吐きつつペンギンはおれに目的を訊ねた。伊達にガキの頃から一緒に居たわけじゃねぇな、ペンギンはおれの意図に何か感づいたらしい。さすがだ。

「麦わら屋を助けた後に、おれが言ったことを覚えているか?」
「……ああ、新世界に行く前に言っていた、」
「そう…イス取りだ、先ずはひとつ」

Tの刺青の入った右手の人差し指をピッと立てる。

「王下七武海…こいつになるには、世界政府からのスカウトが必要だが……立候補も可能だ、」
「…ただし、それにはそれなりの功績をあげなければならない…だったか?船長」

おれの言葉を引き継いだのは、もちろんペンギンでそれを聞いたシャチはようやく納得したらしい。
だが、まだ分からないことがあるのか首を傾げている。

「…せんちょー、手っ取り早く七武海になるのに海賊の心臓を百個集めるのは分かったんすけど…なんでまた心臓なんですか?」

心臓を集めてもどれが誰のか分からないし、それに新世界にあるというワノ国では倒した敵の首をとると言うくらいだから、とるなら首じゃないのか?と訊ねる辺りがまた頭の少し足りないかわいいクルーだと思う。
それでも戦闘になれば恐ろしく頭がきれ、腕が立つのだが……。話が逸れたな、それはまた別の話だ。

「……首は嵩張るし、(視覚的にも)うるさいから邪魔だろ、それにナンバリングするなりネームプレート貼りつけるなりすればいいじゃねぇか、心臓は…特別なんだよ」

ちょっと待ってろ、と言い残して自室へあるものを取りに行く。
船長室で乱雑に積まれた本の山の下敷きになっていた分厚い本を持って戻れば、先程まで座っていた席に湯気の立ち上るコーヒーが置いてあり、ペンギンとシャチはそれぞれ己のマグの中味を啜っていた。
まったく気の利くクルーだ。
おれは口角をわずかに上げつつ椅子に座り、分厚いその本のあるページを開いて指した。

「…お前らは、心が何処にあると思う?」

説明をされるのか、と思っていた二人はローからのとても哲学的な質問に少々面食らっていたが、少し考える素振りをしシャチが答えた。

「え、…頭の中とかっすか?」
「ほう…お前はそう考えるのか、シャチ」

おれはニヤニヤと笑みを浮かべながら、今度はペンギンの解答を聞こうと視線で訴えた。

「……なるほど、」

おれの持ってきた文献を読んだペンギンがニヒルな笑みを浮かべながら、質問の意味をイマイチ分かってないシャチに呼び掛け、長い人差し指で本のある文面をトントンと指し、その文章を読むように促した。

「なに?ペンギン…ん?ここ?……へぇ、ふんふん王族が…別々に、そういうことかー」

最後の一文まで読んだシャチは、なるほどー、と嬉しそうに笑った。
本を開いたままシャチは、船長の考えてる事ってかっこいいっスね!とサングラスの奥の瞳を少年のように輝かせた。

「…おれぁ、海軍に教えてやるんだ」

海賊は“ひとつなぎの大秘宝”を夢見て目指してきたと仮定すると、集めた海賊の心臓の数だけ宿敵は減る、おれの奇特ともとれる意味深なこの行動は“死の外科医”という異名のらしさも上がる。
王下七武海なんざ通加点だ、おれが目指すのは“ひとつなぎの大秘宝”そして海賊王だ。

「それにこれはおれの能力にうってつけだろ?」



先人たちはこう言った。
心は頭でなく、胸に宿る―と。
そしてこころとからだは二分する事はできないとも。
ここでの胸とは心臓を指しており、迷信深い彼らは強くそうであると信じていた。

海賊であると同時に外科医でもあるおれは、海賊として追い求めるロマンや夢は別として、非科学的な事はあまり信じない性質だ(“偉大なる海”では常識に捉われると命取りになることもあるかもしれないが、それも別)、しかしこの心臓に宿るこころは信じてもいいと思う。
おれの海賊団の名前でもあるハートとはHEART…ただ心臓や心、喜怒哀楽を伴う精神だけでなく、物事の中心という意味も持っている。
だからきっと、心臓はただの体の一器官という単純なものではなく、からだとは対の目に見えぬ精神的なものの集まりの象徴なのだ。
おれが海軍本部にプレゼントしてやる心臓のコレクションを悪趣味だの、不気味だのと勝手に言えばいい。だが、イカレ野郎だなんて嗤うのは許さない。


そこに信念が宿るから


心臓集め、いいじゃねぇか…残虐な海賊らしく、おれの悪魔の実の能力を最大限に使って綺麗に摘出するあたりが、実に外科医らしいじゃねぇか。

「さあ、手術(オペ)を始めようか」

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120401 加筆修正120406

若干のネタバレと、直したくせに意味の分からなさが健在なのはなんでだろう。
つまり言いたかったのは、ヨーロッパのどっかの王族は心臓と内臓と残りの身体を別葬儀するって事と、こころがどこにあるのかっていう哲学的な疑問の答えのひとつ。