LOVE PHANTOM


昼間だというのに辺りはぼんやりとし
粉雪がチラチラと舞い始めた

待衛府令アルチョンが
トンマンのいる陣幕まで急ぐ
中に入ると側にはユシンがいて
アルチョンの急いた様子に
トンマンは次の言葉を聞かなくても
わかっていた

「陛下、やっぱり来ましたで
どないしはりますかぁ?」

トンマンはチッと舌打ちして

「ほんまに来たんやな…
しゃーないやっちゃ」

ユシンがどうしたものかと考えあぐね

「どないします?助けはりますか?」

トンマンは首を左右に振り

「今さら刺殺命令は取り消しできひんから
ピダムかてそのへんの事は
わかってんのとちゃうか」

神国の上大等を努めたピダム
成り行きとはいえ謀反人となってしまい
占拠していた城もあっけなく破られ
感情と事情の行き違いから起きた事とはいえ
もうどうしようもない事態に
ピダムは逃げるのをやめて
一途に想い続けた女人(ひと)トンマンを
最後に一目見ようと

陣幕の外がざわつく
トンマン、アルチョン、ユシンが
外に出てみると
ピダムが数多の兵士を相手に大暴れの最中
しかめっ面をしたアルチョンが

「ああ、
派手にやってますわ、止めますかぁ?」

トンマンは頷いて

「せやな
怪我人が出てもあかんしな
ほな、ユシンちゃちゃっと行って
止めてきてんか」

トンマンの言葉でユシンは全速力で走る
ピダムを真正面に見据え

「ピダムそれ以上やったらあかんて
もう、やめときやぁ」

大暴れ最中のピダムは
大きく息をひとつ吐いて

「陛下は?
陛下は、いてるんか?
ユシン止めても無駄やしな
それよりタイマンしよやないか」

ユシンはいやいやと手を振るが
空が段々と陰り出しているのに
気がつかないでいる
ピダムとユシンのまわりを囲む兵士達と
トンマンの身を守りながら
前方を見つめていたアルチョンがふと空を
見上げた瞬間
辺りは黒い闇に包まれ
それはほんの短い時間だったが
闇が開け辺りに陽がさした時

痛っ!
ピダムの頬に衝撃が
目の前にはトンマンが立っていた
いつも側にいるアルチョンの姿はなく
辺りを見回してもトンマンしかいない

(どないなってんのや?)

そう思うピダムの胸ぐらを掴み
片方の手で目一杯どつきまくるトンマン

「アホ!、どアホ!
なんで信じられへんかったんや
なんでおとなしゅうに
ソラボルを離れんかったんや!
約束の場所で待てとあれほど言うたのに」

今度は体のあちこちを
ボコボコに叩くトンマン

「痛い、痛いて、堪忍やて
俺が悪かったさかい、な、な、頼むわぁ
せやけど
こんなんやってる場合ちゃうで
皆おらんようになったがな
どないしたんやろか?」

「そんなんどうでもええやん
ピダム逃げよ、一緒にこっから逃げようや」

え?ええ?えー!
ピダムの驚愕などなんのその
トンマンはピダムの手をガッツリと掴み
手に手を取り走り出した二人

今がどうであれ
この先がどうなろうと


そんなん事ええんや


走りながら
さも愉快そうに笑うトンマン

ピダム
お前を絶対離さへんしな


同じ時、同じ場所なのに
各々に見えているものは違っていたが
唯一 同じだったのは
トンマンとピダムの姿がない事

それから長い年月が過ぎ
時は晩秋
年老いたアルチョンとユシンが
酒を酌み交わしている
そしてあの時の事を懐かしく思い
高らかに笑うトンマンの声が
聞こえたような気がした
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