「ザルチム、すまないが頼まれてくれ」
「またか!」
珍しくザルチムは声を上げた。最近のリオウはとても焦りを見せている。ファウード復活も近づいてきているが魔物を集めることに手間をかけたこと、以前の場所でファウードの所在が発覚し、その後場所をニュージーランドに移動した。
イライラすることはパートナーのバニキスが毎度わがままをリオウに言ったり、俺のパートナーのラウシンをおちょくることやその他に集められたパートナーや魔物を暇を見つけてはいじりに行く。
「こいつ(バニキス)のせいでもう人手も足りんし、余計なことばかりする。今回もすまないがお前に頼みたいんだ」
「っちィ」
盛大な舌打ちがコントロールルームにこだました。何故って?また、ファウードを嗅ぎまわるアリシエの監視としてアイツと行動を共にすることを頼まれてしまった。正直言って、アイツには怒りとかイライラとかそれ以上もそれ以下もないほどに見ているだけでも腹立たしい。自分のスタンスは常に冷静沈着。ラウシンさえもアリシエに対する俺の感情的な状態に気づき、距離を置いて少し様子をみよう、と言ってくれるくらいなのに。

一体なんなんだ。このイライラは。
「アイツが余計なことさえしなければこんな・・・」
くそったれめ・・・とそう呟いてコントロールルームをあとにした。

***
「ザルチム、なんでここにいるんだ!!!」
可愛らしいが生意気な魔物のリーヤの声がこだました。その隣にはイライラの原因のパートナー。

「リオウからの警告と今日の行動についてだ。これ以上のファウード探索をするようなら、お前たちは牢屋に一旦入れておく。それが嫌ならファウードを調べないこと。今日はアリシエと俺でファウード内の仕事をし、リーヤはラウシンのほうで仕事をする。それから――」

ちっとザルチムは舌打ちをした。アリシエとリーヤは危険人物に警戒する戦闘態勢の構えをしながら話を聞いている。

「これから、お前たちの監視を俺がこれからする。これがリオウからの警告だ」
「「はあ??????????????」」
このパートナーたちは両方がイライラの根源のようだ。反応まで同じで。もはや俺からこの監視任務を降りたいくらいだ。

***

というわけで。ふたてにわかれての行動となった。ちょうどラウシンも近くにいたおかげで上手くリーヤを宥めて連れて行ってもらえたがこっちの状況を端的にいうと。

超めんどくさい!!!!!!!!!!!!!!!

アリシエは呪いの呪印を本当に受けているのか?というほどにファウード内の掃除を黙々とこなすし。日に日に力が弱くなっている感覚は伺えるが、ほかの呪印を受けた奴ならもうぶっ倒れても良いころなのに。人手として動かされている。ばかな話だ。それくらいこのファウードは広く、他の魔物とパートナーとの共同生活に近いから分担作業は仕方ないのはわかってはいたが、最近は特にアリシエとリーヤの脱走し、ファウード探索が目に余る上にリオウもカンカンだ。

「終わったぞ」
アリシエは淡々と仕事を終えていた。こっちの気も知らんで。まあ、余計な話さえしたくもないが。そもそもこいつをこんなに自分はどうしてみているだけでイライラするのだろうか。未だにわからない。ラウシンに言ったが、その時にはふっと笑われてそのうちわかるさ、と言われてしまった。なんなんだ。ラウシンを信頼していたからこそ聞いたがあの態度は一体なんなんだ!!!と心の中で自問自答をしていた。

「おい、次はどこの仕事だ」
「あっち」
そういって指を指したらアリシエはその方向に行ってまた淡々と仕事をこなしていた。
ただの人間が俺にたてついたからイライラするのか?
だがそんな奴いっぱいいたな。ラウシンもそうだった。
なにがこんなにイライラするんだ??

ザルチムの中でぐるぐると悩みが無数に広がる。たくさんの思考が重なりあってごちゃごちゃしてきている。わけがわからない。くそったれ。なんだこれは!!もはや逆切れの境地。そんなのをアリシエは知る由もない。

そんなザルチムの様子にアリシエはふっと笑っていることも知らずに。
「今日はやけに静かだな。」
沈黙を破ったのはアリシエだった。
「お前らしくない。」

(俺らしくない・・・?どういうことだ)

「何が言いたい?」
「お前にも悩みでもあるのかと思ってな。僕が聞いてもいいぞ?」
そう言って突然ずんずんとアリシエはザルチムに迫ってきて、スッと汚れた雑巾を見せて「なんてな」とか言ってにっこりした。

ザルチムはそんなアリシエをみて、もはや悩む自分があほに見えてきて時間がもったいなくさえなった。
「前から思っていたが、お前、ほんとにあほか」
「ザルチムっていつも憎まれ口をたたくのか?」

会話が成立していない。
こういうところも腹立たしい。こいつは一体なんなんだ。俺をおちょくるのが得意なのか。
アリシエははあ、とため息をついたザルチムをみてまた笑っていた。

「何がおかしい」
「お前も素直になれば良いのにと思って。例えばリーヤみたいに」
「なんだそれ」
「例えさ。リーヤは甘えたい時は甘えてくるし、寂しいときや悲しいときは泣いて、嬉しい時には笑って、僕が無理をすると怒って・・・そんな風にすれば良いじゃないかと思って」

「はあ??リーヤと一緒にするな」

ザルチムはもともと感情を表にだすようなタイプではないし、どちらかというと誰かといるよりも一人でいるほうが楽だと思って生きていた。光の中の人間はたくさん友達とわいわいしていて楽しそうにするのを影からそっと一人でみているようなそんな感じ。
誰かといるより、読書をするほうが気が楽だし。だからこそリオウに手を貸そうとした自分にさえ意外だったし、アリシエに対して感情をぶつける自分も意外だった。

リオウは許せるがアリシエはなんかむかつく。それもよくわからない。
「そうか。」
アリシエはまた微笑んだ。
「な、なんだ」
「ザルチムって今、反抗期なのか?僕に当たって反抗期してるのか?」
「は、反抗期??????!!!!」

意外な言葉に動揺を隠せない。突然言われた言葉に戸惑い身体ががくがくした。
「ラウシンには良い子でいて、僕には悪い子を。そうやって自分を保とうとしている。リオウとは友達にでもなりたいから手柄を立てたい。そんなところか?」

ラウシンには良い子??アリシエには悪い子?????
リオウとは友達になりたいだと??????????

「ふざけんじゃねえ。お前に、俺の何がわかる!!!何がラウシンには良い子でお前に悪い子だ!!そしてリオウと友達になりたいから手柄を立てたいだと???そんなこと考えたことねえ!!!」
「そうか。じゃあ、純粋にリオウとは友達になりたくて協力し、ラウシンを親のように慕うあまり良い子でいようと努力して、僕にはお前というありのままをぶつけてストレスを発散させているのかな?」
「それ以上言うとファウード復活させる前にお前を殺すぞ」
「それはできないだろう?お前には僕がどうみえるかは知らんが正気だとは思っていなかっただろう」
「な・・・!」

図星に図星をつかれてどういう反応をして良いかもわからない。確かにラウシンと喧嘩なんてものはしたことさえない。むしろ一緒にいて落ち着くし、この時間を大事にしたいと思っていた。リオウとはどうだろうか。ファウード復活させることが王を目指すことよりも自分の感情を高ぶらせたのは事実だ。もともといつか俺は魔物の誰かに消されると思っていたし、王をもとより目指してさえいなかった。
じゃあ、こいつは???

「図星か。知ってるよ。ザルチムがもともと寡黙で良い奴だって。だからこそ不思議だ。僕になにを執着しているんだ?」

しゅう、ちゃく?

「お前は、僕という存在に執着している。不思議だな。お前は俺が嫌いという感情が強いからわからないかも知れないが、嫌いという感情も、執着という感情も、それは興味のあるものにしか湧かないものだ。お前は1人でいすぎたから自分の感情に疎いのかもな」

「・・・・・・・・・・・」
「片付けできたから、この道具だけお前が捨てといてくれ。・・・それから。ラウシンには、ちゃんと話したら良いかもな。お前のパートナーはラウシンだ」

なんだこの屈辱的な感じ。
以前のような敗北感。
ラウシン、お前はわかっていたのか。この感情を。執着だと?この俺が?
ザルチムはその場に座りこんだ。

****
「ラウシンって意外と良い奴だったぞ!!」
リーヤはにこにこしながらベッドで横になるアリシエにもたれて話をする。
「それで?」
「僕のこともアリシエのことも申し訳なく思っていたし、村に来たときに人質に子供をとったことをすごく申し訳なく思っていてさ。僕、びっくりした。すごい優しい奴だなアイツ」
「そうかい。で、他には何か言ってた?」
「そうそう!なんかアリシエにあまりザルチムを困らせないで欲しいってぼやいてた。でもさ、ザルチムが僕らを困らせてるのにな。」
「・・・・」
リーヤの話をにこにこ聞いて、頭をなでるこの瞬間はとても幸せだ。
「ザルチムはどうだった?アリシエにまた当たってたか?」
リーヤの質問にアリシエはリーヤをぎゅーと抱きしめていった。
「少しいじめてやった。いや、少しどころかアイツは今日は大打撃さ」
「アリシエ・・・?」

にこにこしているアリシエがまるで戦人のときのように見えた。

次の日。リオウから直接警告がきた。
「監視はなしだが、もっと重労働に使ってやると」
END

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